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概要:2021年もそろそろ終わりに近づいている。為替相場はクリスマス前後は静かになるが、年末年始は比較的動くことが多いため、実際は年を終えてから結果を分析する方が無難だが、とりあえず現時点で2021年を振り返っておきたい。
佐々木融
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[東京 27日] - 2021年もそろそろ終わりに近づいている。為替相場はクリスマス前後は静かになるが、年末年始は比較的動くことが多いため、実際は年を終えてから結果を分析する方が無難だが、とりあえず現時点で2021年を振り返っておきたい。
12月27日、 2021年もそろそろ終わりに近づいている。為替相場はクリスマス前後は静かになるが、年末年始は比較的動くことが多いため、実際は年を終えてから結果を分析する方が無難だが、とりあえず現時点で2021年を振り返っておきたい。写真は日本円と米ドルの紙幣。2017年6月撮影(2021年 ロイター/Thomas White)
<今年のG10通貨>
2021年初から先週末までの先進国10通貨の騰落率をみると、米ドルが最強で、円がスウェーデン・クローナと並んで最下位となっている。米ドルは2位のカナダ・ドルに対して0.7%程度の差をつけているため、年末までの数日で原油価格が大きく上昇するなどの大きな変化がなければ1位を維持できる可能性は高い。
円とスウェーデン・クローナの間には差は、執筆時点で0.1%もない。最後にどちらが2021年の最弱通貨となるかは予断を許さない。ちなみにスウェーデン・クローナは2019年が最弱通貨、昨年は最強通貨となっており、順位が極端な変動を見せている。カナダ・ドルも同じような傾向がある。2019年は最強通貨、昨年は米ドルの次に弱い9位だった。
つまり、カナダ・ドル/スウェーデン・クローナの通貨ペアは、ここ数年の年間の変動幅がかなり大きくなっていることを示唆しており、実際15%のレンジ内を上下動している。
興味深いのは、過去3年間のカナダ・ドル/スウェーデン・クローナは、年間のトレンドが一方向にある程度しっかり出つつ、年末年始を転換点とした動きとなっている。現状、カナダ・ドル/スウェーデン・クローナは今年の高値近辺にあり、来年早々下落トレンドに転換するかどうか注目してみておきたい。
<20年ぶりに強弱鮮明だったドル/円>
さて、話をドル/円相場に戻そう。米ドルと円は通常同じ方向に動くことが多い。通常、リスクオンの時には一緒に弱くなり、リスクオフの時には一緒に強くなる。
従って、今年のように米ドルと円の強弱に極端な差がつくことは珍しい。まだ、最後まで分からないが、最終的に米ドルが今年の最強通貨、円が今年の最弱通貨となった場合、2001年以来20年ぶりのこととなる。
ここからは、2021年の最強通貨が米ドル、最弱通貨が円となったという前提で話を進める。2000年以降でみると、米ドルが最強となるのは今回で5回目、円が最弱となるのは今回で6回目ということになる。過去に米ドルは最弱通貨となったことが6回あり、これまでは先進国10通貨の中で最弱通貨となったこと回数が最も多かった。
しかし、今年円が最弱となることで米ドルに並ぶことになる。また、米ドルが最強通貨となった過去4回はいずれも2年連続での最強通貨(2000年─01年と2014年─15年)となっており、来年も最強となって3度目めの2年連続最強通貨となるかどうかが注目される。
円が今年の最弱通貨となったのは、基本的には新型コロナウイルス感染拡大による2020年の世界景気後退から回復する中で、欧米株価が堅調に推移し、リスクオンの環境であったことが背景にある。それにしても特に円が弱くなったのは、年初からの市場参加者のセンチメントの急速な変化が背景にあったと考えられる。
2021年は各国のインフレ率急上昇などで、多くの国で中央銀行の金融政策正常化に対する思惑が強まり、各国で長期金利が上昇した。2020年末の時点で、当社はブラジル、チリなど一部の新興国が2021年中に利上げに転じると予想していたが、主要10中銀に関しては、ノルウェーが2022年入り後の利上げ、ニュージーランドは2021年中に追加利下げを行うと予想、その他の中銀に関しては当面政策金利を据え置くと予想していた。
このように市場参加者のセンチメントが2021年中に急速に好転したことにより、短期筋のポジションが円ロング・ポジションから円ショート・ポジションに大きく変化したことも円が特に弱くなったことの主因であろう。IMM(国際通貨市場)の投機的ポジションを見ると、2021年中の円ロング解消・円ショート造成に伴う円売りの規模は、過去約20年間で最大規模となっている。
<21年にドルが強くなった理由>
米ドルはリスクオンの環境下では通常円と同様に弱くなるが、2021年に最強通貨となったのは、1)FRBの利上げ期待が高まったこと、2)年前半に米国経済の独り勝ちの様相が強かった──からだ。ドルはこの2つの条件が重なると強くなる傾向がある。
2021年初の時点では、FF金利先物市場も目先数年間の利上げは全く織り込んでいなかった。しかし、来年の利上げを3回も織り込む過程で米ドルを押し上げていった。
また、2021年前半の米国の景況感は特に強く、米国の製造業PMIは7月の時点で世界全体の製造業PMIを8ポイントも上回った。過去の経験則ではこれが4ポイント程度となると米ドルが強くなる傾向があったので、今年前半の米国の景況感の強さは特別だった。
<年後半に意識される日本のインフレ率>
2022年の円と米ドルは、主要10通貨中で何位となるだろうか。まず、円に関して言えば、来年も新しいコロナウイルスの変異株との戦いが続く可能性もあるが、世界経済が一進一退ながら正常化に向かって行くのであれば、弱い方の通貨に止まるだろう。
ただし、ポジションは今年初と異なり、既に大きく円ショートに傾いており、また、年後半には日本のインフレ率も予想以上に上昇し、日銀の金融政策正常化期待も高まってくる可能性もあるため、最下位は免れるのではないだろうか。
一方、米ドルが過去に記録した4回の1位のうち、2年連続1位は2回となっている。すでに言及したように2000年─01年と2014年─15年だ。ここから考えると来年も米ドルが1位となって、3回連続で2年連続1位となることを期待したくもなる。
しかし、米ドルは利上げ期待が高まっていく中で上昇し、実際に利上げが行われると反落する傾向がある。実際、前回米ドルが2年連続で最強通貨となったのは2014年─15年だったが、FRBが利上げを開始したのは2015年12月だった。利上げを開始したすぐ後の2016年は全体の中で5位まで転落し、その翌年は最弱通貨となった。
したがって2022年も米ドルが最強通貨となるのは難しいかもしれない。むしろ年後半に向けて、貿易赤字の歴史的な水準までの拡大、大幅にマイナスとなっている実質金利などが影響し始め、弱い通貨になってもおかしくないように思える。
編集:田巻一彦
(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。
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