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概要:安倍晋三元首相が凶弾に倒れたことで、市場の一部ではアベノミクスの継続を不安視する声が出ている。世界的なインフレにより、円安デメリットが以前より大きくなっていることが背景だ。しかし、第2次安倍政権以降の2つの内閣もその路線を継続したように、今の経済状況では、金融緩和、積極的な財政、成長戦略という3つの柱をすぐにやめるわけにはいかない。金融市場を巡る状況に、当面変化はないとの見方が多い。
[東京 11日 ロイター] - 安倍晋三元首相が凶弾に倒れたことで、市場の一部ではアベノミクスの継続を不安視する声が出ている。世界的なインフレにより、円安デメリットが以前より大きくなっていることが背景だ。しかし、第2次安倍政権以降の2つの内閣もその路線を継続したように、今の経済状況では、金融緩和、積極的な財政、成長戦略という3つの柱をすぐにやめるわけにはいかない。金融市場を巡る状況に、当面変化はないとの見方が多い。
安倍晋三元首相(写真)が凶弾に倒れたことで、市場の一部ではアベノミクスの継続を不安視する声が出ている。だが今の経済状況では、金融緩和、積極的な財政、成長戦略という3つの柱をすぐにやめるわけにはいかない。
<逆風の金融緩和>
アベノミクス第1の柱、金融緩和に逆風が吹いている。批判の対象は、日銀の低金利政策そのものではなく円安だ。インフレ進行を背景に、世界の中銀が金融引き締めに動く中、日銀は主要国で唯一、金融緩和姿勢を維持。内外金利差拡大が円安の大きな要因となっており、物価高を助長していると指摘されている。
しかし、円安を止めるべきかという点には議論の余地がある。「円安デメリットが取り上げられることが多いが、円安のメリットを受けている企業はたくさんある。声を挙げないだけだ。総合的にみれば円安は日本にとって依然としてプラス」と、マネックスグループ社長の松本大氏はみる。今年度も最高益を見込む企業は多い。
また日銀が動けば、円安に歯止めが掛かるのか、金利引き上げのメリットは円安デメリットを上回るのかという点もはっきりしない。日本経済の現状からみて、利上げできる幅は限られているというのが、市場のほぼ一致した見解だ。手詰まり感が出れば、投機勢の攻撃はさらに強まる。
市場における金融政策変更の予想を反映するオーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)金利1年物は8日、安倍元首相銃撃の急報を受け上昇したが、水準は日銀の政策修正に対する思惑が強まり円債市場が大荒れとなった6月15日の水準の約9分の1(1年物)にすぎない。動揺した株や為替も戻している。
複雑化した今の金融政策の修正を次期日銀総裁に望む市場の声は多い。ただ、「候補とみられている雨宮正佳氏と中曽宏氏は、黒田東彦総裁の下での日銀執行部の一員。政策を180度転換するのは自己矛盾になってしまう」(パインブリッジ・インベストメンツの債券運用部長、松川忠氏)との声も多い。
<大幅緊縮難しい財政>
財政政策もすぐに緊縮化するわけにはいかない。22年度一般会計予算の内訳をみると、社会保障関係費、国債費、地方交付税交付金の3つで4分の3を占める。バラマキを止め、財政健全化を進める必要はあるが、高齢化が進む日本では、いずれもすぐには大幅削減できない。財政支出を短期間で大幅に削減すれば、景気が悪化し、社会的な不安が高まるおそれが強まる。
国と地方の長期債務残高は12年度末に932兆円(GDP比187%)だったが、22年度末には1244兆円(同220%)に拡大する見込みだ。金利が上昇すれば、利払い費も大幅に増加するという事情もある。
一方、日銀のイールドカーブ・コントロール(YCC)政策による大量の国債購入で、金利の自由度は低下し、財政規律に対する「警告機能」は事実上失われてしまった。日銀の国債保有額は6月に全体の5割を超えたと推計されている。低金利環境が放漫な財政を助長するという面があるのは否めず、今後の課題でもある。
<道半ばの成長戦略>
アベノミクスで道半ばだったのは成長戦略だ。世界経済成長の追い風もあり、この10年間に雇用の改善は続いた。2012年12月に4.3%だった完全失業率は今年7月で2.6%に低下。有効求人倍率も0.83倍から1.24倍まで上昇している。
しかし、経済協力開発機構(OECD)によると、日本の平均賃金はドルベースでみて2012年の3万8058ドルから2020年の3万8515ドルまで1.2%しか上昇していない。その間、OECD平均は7.5%、米国は12.5%上昇している。
世界の主要国に比べて低い2%程度のインフレに苦しんでいるのは、賃金が上がらないことが大きな要因だ。アベノミクスでは、環太平洋連携協定(TPP)の締結などの成果もあったが、日本企業の国際競争力の低下は止まらず、時価総額でも世界の上位から消えてしまった。TOPIXをS&P500で割ったTS倍率は低いままだ。
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「フリーハンド」を得た岸田首相が財政健全化や金融正常化に動くのかが注目されているが、コロナやエネルギー対策が喫緊の課題である日本では、アベノミクス政策の微修正はできても、完全に転換することは難しい。「次の段階に進むことができるのは成長戦略に成功したときだ」と、ニッセイ基礎研究所のチーフエコノミスト、矢嶋康次氏は指摘する。
(伊賀大記 編集:石田仁志)
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