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概要:フィリピンのバターン原子力発電所(BNPP)は1970年代の石油危機時にエネルギー安全保障の切り札になるとの期待を集め、23億ドルの費用を投じて1984年に完成した。だが、その後、1度も運転されず放置されてきた。
[マニラ 5日 ロイター] - フィリピンのバターン原子力発電所(BNPP)は1970年代の石油危機時にエネルギー安全保障の切り札になるとの期待を集め、23億ドルの費用を投じて1984年に完成した。だが、その後、1度も運転されず放置されてきた。
8月5日、フィリピンのバターン原子力発電所(写真)は1970年代の石油危機時にエネルギー安全保障の切り札になるとの期待を集め、23億ドルの費用を投じて1984年に完成した。2018年5月撮影(2022年 ロイター/Romeo Ranoco)
しかし、マルコス新大統領は、父で独裁者だったマルコス元大統領が承認したこのBNPP再生を改めて検討している。従来の石炭や天然ガスを利用した火力発電コストの急上昇をもたらしている現在のエネルギー危機に対処するためだ。
BNPPを巡るこうした動きは、世界中で原発が再注目されている流れの一端と言える。欧州からアジアまでの各国は、老朽化している原発の運転期間延長や操業していない原発の再稼働に乗り出したほか、2011年の福島第1原発事故を受けて棚上げされた新たな原発建設計画を復活させつつある。
バイデン米政権と国際エネルギー機関(IEA)はいずれも原発について、各国にとって温室効果ガス排出量の実質ゼロ化を達成するだけでなく、ロシアのウクライナ侵攻以降に化石燃料価格が高騰する中で、エネルギー安全保障に万全を期すという面で重要な存在と位置付けている。
その結果、原発は1970年代の石油危機後に相次いで建設計画が打ち出されて以来の黄金時代を迎えるかもしれない。ただ、そのためには政治家や非政府組織(NGO)からの反対、資金の確保、安全性を巡る懸念といった課題を克服する必要があるだろう。
コンサルティング会社のウッド・マッケンジーのアジア電力・再生可能エネルギー調査責任者、アレックス・ウィットワース氏は「化石燃料の価格が3─4年高止まるとすれば、特にアジアで原子力開発の黄金期が始まるには十分な条件だと思う。なぜなら、アジアは最も電力価格動向に敏感で、電力需要が大きいからだ」と話す。
ウィットワース氏は「欧州と米国の経済悪化を踏まえると、向こう数年間で伸びる電力需要の約8割は、アジアが占めることになる」とみている。
交代したばかりのフィリンピンや韓国、そして日本の政権は、エネルギー高を背景とする世論の風向きが変わったことに後押しされ、さらに温室効果ガス排出量削減も迫られたため、原発の再稼働や新規建設によって電力不足を緩和しようとしている。
ベトナムは、安全性に関する懸念と予算上の制約で2016年に保留していた2つの原発プロジェクトを再び推進するかもしれない。日本でも参院選に勝利した岸田文雄政権が、冬場に最大9基の原発再稼働を進める考えを示した。
複数の専門家の話では、世界の製造業の拠点が集まるアジアは再生可能エネルギーを補完し、化石燃料の代わりになる「ベースロード電源(季節や昼夜、天候を問わず一定量を低コストで供給できる電源)」を求めているので、原発の新規建設をけん引する地域になるだろうという。
IEAは先月、2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにするには、世界全体の原子力発電能力を2倍に引き上げ、電気自動車(EV)に提供するとともに、水素やアンモニアといった非化石燃料を生産して重工業の排出量削減につなげなければならないと指摘した。
<政策が後押し>
ロールスロイス子会社、ロールスロイスSMRのポール・スタイン会長は先月、シンガポールやフィリピン、日本では小型モジュール炉(SMR)のような新技術導入が議論されていると述べた。SMRは従来の原子炉に比べ、建設期間が短縮化されて費用も安くなる。
スタイン氏はインタビューで「極東の高度に工業化された経済諸国では、工業化が進んでいる欧州や米国と同じか、それ以上に急速な原発の増加が求められている」と語った。
従来の原発でも耐用年数が終わるまでの平均発電コストは、現在の価格に基づく天然ガス火力発電の半分未満で、これは石炭火力も同様なだけに、各国が原発プロジェクトを復活させる要因になっている、とウッド・マッケンジーのウィットワース氏は説明する。
ウィットワース氏の話では、足元で原子力はアジア太平洋地域の電力の約5%を提供しているが、2030年には8%まで高まる見込みだ。
一方、福島第1原発事故の後に追加された安全性審査の項目や新型コロナウイルスのパンデミックに起因する工事の遅れと費用増加は、プロジェクトにとって悩みの種と言える。
さらに専門家によると、原子炉の初期費用の高さと、放射性廃棄物処理を巡る問題、全般的な安全性への不安も建設の妨げになっている。
仏大手電力会社・EDFが英国で建設中の原発「ヒンクリーポイントC」も予算が膨れ上がり、稼働開始は当初約束した時期から10年遅れる見通し。EDFはパンデミックによって人員や資源、サプライチェーン(供給網)の面で制約を受けたのが原因だとしている。
米国ではジョージア州にあるボーグル原子力発電所の3号機と4号機が、6年遅れで来年運転を始める。建設費用は当初の2倍以上に膨らみ、300億ドルに達した。
調査会社クリアビュー・エナジー・パートナーズのアナリスト、ティモシー・フォックス氏は「ばく大な超過費用と長期の遅れは、大規模原発の建設を望む向きに不安をもたらしたのは間違いない」と述べた。
それでもバイデン政権は、昨年議会で承認された原子力セクターを支援する60億ドル規模の計画を実行しつつあり、追加支援にも前向きだ。7月27日に上院に提出された法案が可決されれば、新型の原発建設を後押しし、古い原発の閉鎖を阻止できる可能性がある。
欧州では今のところ建設中の原発は数カ所にとどまるとはいえ、フランスは2050年までに最大14基の原子炉を新設する計画。欧州連合(EU)は今月、原子力発電への投資を環境にプラスとなる「グリーン投資」に認定しており、新規プロジェクトには官民の資金が流入するとみられる。
(Enrico Dela Cruz記者、Florence Tan記者、Timothy Gardner記者)
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