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概要:日本政府と日銀が24年ぶりに実施した円買い介入について、効果を疑問視する声が強い。実際、ドル/円相場は、9月22日の介入直後には140円後半まで押し戻されたが、週明け後は144円台を中心に推移している。
[東京 28日] - 日本政府と日銀が24年ぶりに実施した円買い介入について、効果を疑問視する声が強い。実際、ドル/円相場は、9月22日の介入直後には140円後半まで押し戻されたが、週明け後は144円台を中心に推移している。
9月28日、日本政府と日銀が24年ぶりに実施した円買い介入について、効果を疑問視する声が強い。写真は都内の為替ボード前で22日撮影(2022年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)
効果に懐疑的な見方の背景には、円安の主因である内外金利差の拡大が今後も続く見通しであるだけに、為替介入の効果は限定的との理解がある。確かに日米の中央銀行による9月の政策決定において、日銀は金融緩和の維持方針を確認した一方、米連邦準備理事会(FRB)は4%中盤までの利上げ継続を示唆した。
<取引の前提揺るがす介入は可能か>
ただし、内外金利差が円安の主因であるという理解には留意すべき点もある。日米の金利差が3─4%に開いたといっても、それは年ベースである一方、為替レートが1日で同じ3─4%変動することも決して珍しくない。それでも、内外金利差によって為替レートが動くとすれば、ボラティリティの低さないし変動方向の偏りという暗黙の前提を伴っていることになる。
こうした前提は、短期取引を行うファンドのような投機筋だけに共有されているわけではない。日本の輸入企業や輸出企業も、ボラティリティや変動方向の見通しに即して「円投」による外貨調達や「円転」による収益の確定のタイミングを調整すると考えられる。また、日本の機関投資家も「円投」による対外証券投資を行う際には、こうした見通しに即してヘッジ比率を調整するとみられる。
このため、為替介入がこうした前提の妥当性を揺るがすことができれば、内外金利差による円安に一定の歯止めをかける可能性はある。為替レートのボラティリティを上昇させるためには、特定の水準を防衛するのでなく、水準や規模の面で市場にサプライズをもたらす方法が適している。
これに対し、為替介入によって為替レートの変動方向に関する期待の偏りに影響を与えることは難しいが、時限性のある問題と考えることもできる。
つまり、本年末にはFRBによる利上げの最高到達点のタイミングや水準が、より明確になるだろうし、日銀の次のレジームでの政策運営も徐々に明らかになろう。為替レートが円高方向に反転するかどうかは不透明だが、一層の円安を期待することは難しくなりうる。
それでも、投機筋が円売りポジションを持ち続けることは可能であるし、今回は相対的に低金利通貨である円の売りポジションなので、そのコストも円高期待の円買いポジションに比べて有利ではある。一方で、世界的に金利上昇が進む下では、他の投資機会との対比での機会費用も大きくなりうる。
<実需の吸収という為替介入の可能性>
内外金利差による円安という理解は市場で広く共有されており、誰が主導したのかを特定することは難しい。
ただ、少なくとも投機筋の立場に立てば、日本の市場参加者による貿易取引や対外証券投資等に基づく実需が、内外金利差に即して動いている事実は好都合である。つまり、自らの為替取引によるインパクトを増幅しうる上に、為替レートの変動方向の逆転に伴うリスクを軽減しうるからである。
そこで、為替介入によって実需による円売り圧力を吸収できれば、投機筋による円売りのモチベーションを抑制することも期待できる。実際、2000年代前半の大量介入の際には、少なくとも結果としてみれば、為替介入額の合計は貿易黒字や海外投資家による日本への証券投資と概ね見合っていたという事実もある。
今回の局面で為替市場から実需を吸収するには、経常赤字と日本の投資家による対外証券投資の合計に対応する必要がある。本年前半のペースが維持されるとすれば、年間を通じた両者の合計は30兆円前半に達しうる。
一方、日銀の資金需給統計から推測すると、今回の為替介入は9月22日だけで3兆円に達したとみられるだけに、数字上は非現実的でないようにも見える。
それでも、今回はこうした手法の採用は難しいように感じる。なぜなら国内のインフレ抑制のためにドル高が望ましい米国は、日本の円買い(ドル売り)介入に限定的に同意した可能性があるだけでなく、30兆円規模での円買い介入は日本の外貨準備を相当に減少させうるためだ。この点は、かつての大量介入が円売りであり、従って外貨準備の増加に貢献したこととは正反対だ。
財務省の統計によれば、8月末の外貨準備は約1.3兆ドルであり、円換算で190兆円弱である。そこで30兆円以上も円買い介入すれば、外貨準備の6分の1程度を失うことになる。日本経済が少なくともマクロ的には景気回復局面にあり、金融経済の危機とは程遠い状況で多額の外貨準備を使用することの合理性は乏しい。
<金融政策との整合性>
為替介入の効果を疑問視する見方のもう1つの背景は、政府の円買い介入と日銀の金融緩和とが整合的でないとの理解にある。
ここまで分析してきたように為替市場の期待形成のあり方を踏まえると、中央銀行の利上げによって円高シナリオを形成した上で、為替介入によってそうした期待を裏打ちできれば、為替レートの動きにインパクトを与えることが期待できる。
ただ、今回の円買い介入が特定の水準の防衛ではなく、市場のボラティリティの上昇を通じたスピード調整的な意味合いが強いのであれば、政策の方向性の非整合性もそこまで深刻ではないとも考えられる。
技術的な観点からみれば、こうした非整合的な政策の下では日銀が資金需給の変化に対して、どう対応するかもポイントとなりうる。つまり、政府の円買い介入はその分だけ金融市場から資金を吸収するだけに、日銀は金融緩和を維持したいのであれば、その分だけ新たに資金供給することが必要となる筋合いにある。
しかし、この点も今回の局面では重要ではない。なぜなら、日銀による量的・質的金融緩和の下で、超過準備は400兆円をはるかに超える規模に達しており、3兆円の減少がマイナス金利政策の維持に影響することは考えにくい。
また、市場に対する資金需給の規模からみても、9月22日の為替介入の規模が上記のように3兆円程度であったとしても、日銀による指し値オペを含む国債買入れの規模が明確に上回っている。
より広い視点に立てば、日銀による金融緩和がインフレ率の押し上げを進めている一方、政府が円安による物価高騰への対策を講じていることが政策の方向性としては非整合的であると批判されているが、マクロとミクロで異なる政策目標を同時に追求しているとも理解できる。
その上で、筆者にとって興味深く思えるのは、自国通貨の買い介入と国債買い入れという組み合わせは、一般的には金融経済の危機において発動される政策パッケージだという点である。
なぜなら、危機の際には為替レートの急落と国債利回りの急騰が起こるからである。これが決して新興国に特有の事態でないことは現在の英国が示唆するとおりである。
既にみたように、日本のように巨額の外貨準備を有する国でも、大規模な円買い介入を継続することには制約がある。これに比べて、自国通貨の供給に技術的な制約のない日銀が国債を買い支えることは相対的に容易だが、自国通貨の急落に伴う輸入インフレとの両立には困難も伴いうる。
自国通貨の買い介入と国債の買い入れという政策の組み合わせの効果を様々に議論できる間は良いが、本当に必要になればそうした余裕もなくなる。足元で起きている英ポンドと英国債の急落は、そのことを端的に示しているケースと言えるだろう。将来の日本でこうした政策の組み合わせが再び訪れないことを心から願いたい。
編集:田巻一彦
*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
*井上哲也氏は、野村総合研究所の金融イノベーション研究部シニア研究員。1985年東京大学経済学部卒業後、日本銀行に入行。米イエール大学大学院留学(経済学修士)、福井俊彦副総裁(当時)秘書、植田和男審議委員(当時)スタッフなどを経て、2004年に金融市場局外国為替平衡操作担当総括、2006年に金融市場局参事役(国際金融為替市場)に就任。2008年に日銀を退職し、野村総合研究所に入社。金融イノベーション研究部・主席研究員を務め、2021年8月から現職。主な著書に「異次元緩和―黒田日銀の戦略を読み解く」(日本経済新聞出版社、2013年)など。
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