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概要:イケてる事業計画書を書くポイントとは? Airbnbが最初の資金調達に成功した時のプレゼン資料をお手本にしつつ、優れた計画書の書き方のコツを元リクルートの中尾隆一郎さんが解説します。
Charley Gallay/Getty Images
ビジネスパーソンにとっては馴染みの深い「事業計画書」。新規事業の立ち上げの際に作成するのはもちろんですが、既存事業の中期事業計画を立案する際や、起業家が資金調達のプレゼンをする際にも、事業計画書は重要な役割を果たします。
それほど重要な資料であるにもかかわらず、私たちは意外なくらい、事業計画書の書き方についてきちんと学んだことがないと思いませんか?
そのせいか、ビジネスの現場で目にする事業計画書の中には「イケてない」ものが少なからず存在しています。そもそもの事業目的が曖昧なもの、収益見通しが甘すぎるもの、事業を実行する組織体制に無理があるもの……などなど、例を挙げればきりがありません。
私は事業計画書を作成する側も、それを承認する側も、そしてその事業計画を執行する側の3つとも経験したことがあります。イケてる計画書とイケてない計画書の違いはどこにあるのか、その勘所が実感をもって分かるからこそ、きれいなフォーマットで作り込まれているわりに中身が残念な計画書を目にするたびに、なんともいたたまれない気持ちになります。
そこで本稿では、「どうすればイケてる事業計画書を書けるのか」を、具体的な事例を取り上げながら解説していきたいと思います。
取り上げる事例は、エアビーアンドビー(Airbnb、以下エアビー)です。エアビーは、過去20年間で最も飛躍的な成功を収めたスタートアップのひとつ。創業は2008年で、当初は「エアベッド&ブレックファスト(AirBed&Breakfast)」という社名でした。旅行者が地元の民家からエアマットレスを借りられるようなシステムをつくろうというコンセプトだったそうです。
そんな彼らが、創業間もない2008年頃に最初の資金調達で30億ドル以上を手にした際のピッチデック(プレゼン資料)がBusiness Insider Japanに掲載されています。かなりイケてる新規事業計画書です。これを引用しながら、具体的にどこがイケてるのかを解説していきます。
みなさんはぜひ、投資家(事業計画決裁者)になったつもりで読み進めてみてください。
以下が、前回お話ししたイケてる事業計画書をつくるために必要なポイントです。この順に沿ってエアビーの事業計画書を読み進めていくことにしましょう。
・3つのステークホルダー(起案者、承認者、執行者)は味方同士である。
・事業計画書とは、突き詰めると次の3つから成っている。
(1)事業目的:事業責任者が実現したい「夢」の部分
(2)事業計画:それをどのように具体化するのかという「計画」の部分
(3)論点:事業目的を事業計画どおり進めるための「課題と解決策」の部分
・上記3つのうち、特に重要なのは「(3)論点」。3つのステークホルダーが対話を重ねることで、事業計画の蓋然性を高めていくことが重要。
また、新規事業における「論点」として特に重要な要素として、次の4点を挙げました。
(A)顧客:我々が期待するだけの顧客数はいるのか
(B)顧客価値:我々のサービス・商品は、顧客が期待する価値を提供できるのか
(C)対価:顧客は、我々が期待する価格を支払ってくれるのか
(D)オペレーション:我々が期待する利益が出るだけのオペレーションが実現できるのか
(1)事業目的:起案者はどんな夢を実現したいのか
事業目的とは、事業責任者が実現したい「夢」のことです。
この事業を通じて世の中のどんな課題を解決したいのか、どんなインパクトをもたらしたいのか……。この事業に関わるすべてのステークホルダー(「起案者」だけでなく、その事業に出資する投資家や金融機関などの「承認者」、そして取引先などを含めた「執行者」も)に、「この夢を実現するためにぜひ力になりたい、仲間としてやってみたい」と思わせるようなものでなければいけません。
エアビーの事業目的はこうです。
(出所)「Airbnbは創業期にどうやって30億ドルの資金調達に成功したのか? プレゼン資料を公開」Business Insider Japan、2021年4月26日)より。
(出所)「Airbnbは創業期にどうやって30億ドルの資金調達に成功したのか? プレゼン資料を公開」Business Insider Japan、2021年4月26日)より。
この計画書から読み取れるエアビーの「事業目的」は、要するにこういうことです。
旅行者は(宿泊施設より安い)お金を払って民家に泊めてもらい
民家の人はホストになって収入を得る簡単な仕組みを作る。
そして(宿泊施設ではできない)文化の共有を実現する。
起案者が何をしたいのか、極めて端的で分かりやすいですよね。
しかも、単に旅行者と民家をマッチングさせるだけでなく、一般の宿泊施設ではなかなか実現しにくい「文化の共有」を目的にするというのは、なるほどと思いませんか? 若い人たちが利用するイメージが真っ先に思い浮かびます。
しかも、旅行者はお金を節約できる。ホストも収入を得られる。これなら若い人たちだけでなく、もう少し広いターゲットも利用しそうです。
加えて、家という本来なら利益を生み出さない場所が利益を生み出すわけですから、参入するホストもある程度いそうなイメージがつきます。
(2)事業計画:事業目的をどう具体化するのか
(1)で語られた事業目的をどのように具体化するのかという「計画」のパートがこの「事業計画」に当たります。事業目的が「What」ならば、事業計画は「How」ということですね。
たとえどんなに素晴らしい夢が語られても、それを実現できなければ文字通り「絵に描いた餅」で終わってしまいます。ですから、このパートではこれがいかに適切な事業計画であるかをステークホルダーたちに説得できなければいけません。
エアビーのケースを見てみましょう。
(出所)「Airbnbは創業期にどうやって30億ドルの資金調達に成功したのか? プレゼン資料を公開」Business Insider Japan、2021年4月26日)より。
ここでエアビーが描いているビジネスモデルは、以下のとおりです。
取引ごとに10%の手数料
市場規模が1060万ドル
平均手数料は20ドル(3泊で70ドル)
これらを掛けると年間2億ドル
フェルミ推定を使って市場規模(※市場規模についての詳しい説明は後述)を割り出し、そこに手数料率を掛けることで、ざっくり年間2億ドル(約200億円)という収益規模をはじき出しています。
投資家など承認者の立場では、ここで算出される数字に無理がないかを気にするところですが、その点、エアビーの計画には特に「不十分だな」「甘いな」と感じる部分は見当たりません。100億円規模の売上を上げられるだけのポテンシャルがあるとは、楽しみな新規事業だなと感じさせてくれる内容です。
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スティーブ・ジョブズに学んだ3つの教訓。ピクサーでの13年は「大学院レベルの授業」
(3)新規事業における論点
さて、ここからは「論点」の検証に移ります。前回強調したように、事業計画で最も重要なのはこの論点の設定です。あなたが書く事業計画書がイケてる内容になるかどうかは、ひとえにこのパートのクオリティ次第と言ってもいいでしょう。
主に4つの要素からなる論点について、エアビーの例とともに解説を進めていくことにします。
(A)顧客:顧客数はいるのか
ここでは、立案した事業にはどのくらいの顧客数が見込めるのか、市場規模などをプレゼンします。
エアビーの場合、これからやろうとしているビジネスの市場規模を次のように算出しています。
(出所)「Airbnbは創業期にどうやって30億ドルの資金調達に成功したのか? プレゼン資料を公開」Business Insider Japan、2021年4月26日)より。
世界全体の旅行予約 119億ドル以上
オンライン予約市場 5億3200万ドル
AB&Bでの旅行市場シェア 1060万ドル
「旅行予約(世界全体)」の市場規模(119億ドル以上)は、おそらく開示情報でしょう。旅行業界のようにすでに確立している業界ならば、調べれば正確な数字が分かるはずです。この数値は、発展途上国が今後ますます成長していくにつれて中間層が増え、さらに大きくなる可能性がある数少ない市場です。
「オンラインでの予約」の市場も同様にして、事実を記載することができますね。エアビーの計画書によれば、オンライン予約市場は世界全体の旅行予約市場の5%以下。しかし今後、インターネットがますます浸透しネット予約や電子決済などが普及してくれば、この割合は自ずと増えるはずです。
最後の「AB&Bでの旅行」については、起案者が狙う市場シェアを反映させた数字です。エアビーは「1060万ドル」と見積もっています。これはオンライン市場の2%に相当する数字ですね(5億3200万ドル×2%=1060万ドル)。
こうした試算にはよくフェルミ推定が活用されます。すでに確立している市場でもないかぎり確かな数字を把握することは難しいですが、フェルミ推定は桁がずれない程度の精度はあるはずです。
エアビーが導き出した「1060万ドル」は、オンライン市場の2%と見積もっていることから、あまり無理な数字ではないと想定できます。少なくとも数十億円規模の可能性があることは分かりますね。
なお、ここで提示する市場規模に求められる正確性は、目的によって異なります。例えばエアビーの場合は「投資をするかどうか」に関わる判断ですね。プレゼンを聞いた承認者が「投資をする」と判断した場合、その後の第2フェーズで株価の算定や投資額の判断などが行われます。ですから、事業計画書の市場規模には多少のブレがあったとしても、承認者はリスクありと判断すれば第2フェーズの判断でリスクをヘッジすることができます。
一方、事業計画書の目的が売上を確定するようなものであれば、市場規模の試算にはより高い精度が求められます。
さて、市場規模にどれだけ蓋然性があるかを知るうえでは、想定される競合サービスのユーザー数なども重要な情報になります。
例えばエアビーは、次のような競合サイトを取り上げて説明しています。
(出所)「Airbnbは創業期にどうやって30億ドルの資金調達に成功したのか? プレゼン資料を公開」Business Insider Japan、2021年4月26日)より。
競合サイトは2つあり、
1つは63万ユーザー
もう1つは1万7000ユーザー
つまり、まったくの新規市場ではなく、立ち上がりつつある市場だということがここから読み取れます。
承認する人、あるいは投資する人がこのサービスに懐疑的だったとしても、既に市場があるというのは力強い説明になります。
(B)顧客価値:価値を提供できるのか
起案者が温めている夢はイケていて、それを求める顧客も十分にいそうだと分かっても、本当にその期待通りにサービス・商品を提供できなければ意味がありません。
そこでこのパートでは、承認者に対して「自分たちはそれを確かに実現することができる」ということを伝える必要があります。
また、想定される競合サービスに対して、自分たちにはどんな差別化ポイントがあるのかも、このパートの中であわせて伝えるとよいでしょう。
エアビーの例を見てみましょう。彼らはどうやって、自分たちこそはこの夢を実現できると示したのでしょうか?
(出所)「Airbnbは創業期にどうやって30億ドルの資金調達に成功したのか? プレゼン資料を公開」Business Insider Japan、2021年4月26日)より。
まず、プロダクトのUIがシンプルですね。「都市名で検索 → 検索結果 → カンタン予約!」と、誰でも直感的に使いこなせそうなUIが想定されているので、これならばインターネットを使い慣れた若者だけでなく、もっと幅広い年齢層にも対象を広げられそうな期待が持てます。
続いて、競合相手についても見ておきましょう。エアビーは自分たちの競争環境を次のように見ています。
(出所)「Airbnbは創業期にどうやって30億ドルの資金調達に成功したのか? プレゼン資料を公開」Business Insider Japan、2021年4月26日)より。
競合は、前述した2つのサービス(Couchsurfing.comとCraigslist.com)はあるものの、これらはいずれも主にオフラインでのサービスです。
また、オンラインかつ低価格のセグメントにはHostels.comが存在していますが、これはあくまでホステルに宿泊することにフォーカスしたサービスであるため、宿泊者同士の交流はできても「地元の人との文化の共有」はできません。
オンラインサービスにするだけでも価値提供できる可能性があるうえに、文化の共有をコンセプトにしているプレイヤーはいない。つまり、旅行者に価値提供できる唯一の存在になれる可能性があるということが分かります。
(C)対価:価格を支払ってくれるのか
次に、自分たちがイメージしている価格を顧客が本当に払ってくれそうかを検証します。
エアビーの場合、このパートに関連する事柄は、先述したプレゼン資料の中にごくシンプルに書かれています。
(出所)「Airbnbは創業期にどうやって30億ドルの資金調達に成功したのか? プレゼン資料を公開」Business Insider Japan、2021年4月26日)より。
「取引ごとに10%の手数料をいただきます」とあります。
1泊あたり手数料10%で20ドル。ということは、エアビーは1泊あたりの宿泊料を200ドルと見積もっていることがここから読み取れます。
承認者は1次スクリーニングの際、ユーザーの視点に立ってこの企画に違和感がないかをチェックします。
例えばエアビーのケースなら、ホテルの料金は都市部か地方か、またランクによってもかなり違うことは少し調べればすぐに分かります。最高級ホテルはスタンダードルームが1泊500ドル以上するところもありますし、格安ホテルなら30ドル台で泊まれるところもあります。
旅行者が一番よく利用する“中の上”のホテルなら、都市部やリゾート地で130~200ドル、地方都市なら100ドル強。ホテル代金が驚くほど安いラスベガスなら70~90ドル程度です。
B&B(Bed&Breakfast:オーナーが自宅の数室をゲストに提供し、手づくりの朝食を出す民宿スタイルの宿泊施設)だと料金は高級ホテル並みで、1泊200ドル以上です。
これらを見るかぎり、エアビーが想定している1泊あたり200ドルという数値は、アメリカであればごく適切な数字だと判断できます。
(D)オペレーション:本当に実行に移せる実力がある体制か
論点の第4の項目は「オペレーション」。つまり、ここまでで詳しく述べられてきた規模感、収益イメージの事業を、本当に実行に移せるだけの力があるのか、ということを伝えるためのパートです。
エアビーの例では、「Team」と題した創業者3人のメンバー紹介を入れています。
(出所)「Airbnb Pitch Deck From 2008」Slideshare、2016年9月1日より。
ベンチャーキャピタル(VC)が出資をするかどうかを決める際、最も重視するのは「誰がやるのか」です。
事業のアイデアがどんなに素晴らしいものでも、どんなに収益見込みがあるものでも、それを実行に移す人物が役者不足というのでは絶対にうまくいかないからです。
このエアビーのチーム構成について、本稿で引用しているBusiness Insider Japanの記事にはこんなコメントが紹介されています。
「Yコンビネータを通じてエアビーに初めて投資したポール・グレアムは2009年、投資家仲間のフレッド・ウィルソンにこんなメールを書き送っている。いわく、『エアビーはイーベイと同様に化けると思う。創業者の顔ぶれもこのビジネスにおあつらえ向きだ』」
Yコンビネータの共同創業者であるポール・グレアムをしてこう言わしめていうことからも分かるとおり、このエアビーの事業をうまく軌道に乗せるうえで、3人の創業メンバーは適任です。
デザインの素養がありUIにも精通しているジョー・ゲビア、同じくデザインに詳しくその道でコンサルタント業もやっているブライアン・チェスキー、テクノロジーに明るくアプリの開発経験もあるネイサン・ブレチャージク。
この3人をもってすれば、事業計画書に書かれたプランを確かに実行に移せそうだ——そう期待を抱かせるだけのチーム構成だと思いませんか?
残論点:競争優位性
以上が論点設定で最も重要となる4つの項目ですが、エアビーのプレゼン資料にはこれに加えて、競争優位性についても触れられています。
(出所)「Airbnbは創業期にどうやって30億ドルの資金調達に成功したのか? プレゼン資料を公開」Business Insider Japan、2021年4月26日)より。
オフラインの競合が今後オンラインに進出してくることは容易に想像つきますね。つまり、(未来の潜在)競合がいるということです。
「その競合相手よりも早く市場に一番乗りして、競合が追いつけないようにすることが、大きな収益を得る鍵だ」——エアビーはこの計画書でそうアピールしているわけです。「だから、アクセルを踏むための資金を投入してほしい」と。
その資金を使って、一気に市場に打って出る。そうすることで、
市場に一番乗りし(だから資金を調達したい)
ホストにとって魅力ある存在となれば(それには資金が必要)
物件が一度に表示されて(だから便利)
使いやすく(まさに便利)
注目度の高い(資金をこれに使う)
デザイン・ブランド力を実現できる(資金さえあれば実現できる)
と畳みかけているわけです。
どうでしょうか? 承認者にとって必要な情報が過不足なく、しかもわずか10ページあまりの資料として簡潔にまとめられています。新規事業の事業計画書のお手本と言ってもよい内容です。
あなたが投資家や決裁者だったら、このエアビーの事業計画書を見て、間違いなく承認したくなりませんか?
事業計画書を起点にグッドサイクルをつくる
前回お話ししたように、事業計画書に関係する3者のステークホルダーには次のような関係性があります。
編集部作成/イラスト:Sapann Design/Shutterstock
起案者のプレゼンを聞く承認者は、心の中で「この事業計画書には、自分たちにとって都合のいいことしか書いていないのでは?」と懐疑的になることも少なくありません。
起案者が説明する事業目的に夢がなければ、承認者も執行者も応援しようという気にならないのは当然ですが、しかしだからといって、まったく実現性がない夢物語を滔々と語られても、それはそれで意味がありません。
また、事業計画に難点や不明点があるのに、それを隠してさも完璧だと言わんばかりの事業計画を立ててくる人がいます。いくら計画上の見栄えをよくしてもその計画が実現できなければ意味がないのに、承認者からのOKをもらうことにばかり意識が向いてしまっているのは困ったものです。
ただし、承認者の立場からすると、この手の起案者なら「まだマシ」とも言えます。承認者がその業界に精通していれば、適切な質問をし、対話の中でその難点や不明点を正していけば軌道修正できるからです。
それよりもたちが悪いのは、起案者が、難点や不明点があることに気づけていないケースです。この場合、起案者自身にすら「何が分からないかが分かっていない」のですから、承認者が質問をして軌道修正することもできません。
解決したい課題が見えていない人、つまり論点設定ができない起案者には、私に限らず、どのステークホルダーも決してOKは出しません。
「大人を舐めてはいけない」
私がリクルートで新規事業を担当していた時にこんなことがありました。
新しくエリアの責任者や店長になった人たちには、事業計画書を作成してもらいます。そして私にプレゼンテーションをして、承認を得ます。
その事業計画書の中には、計画数値をシミュレーションするためのスプレッドシートも含まれていました。シート上の数字を少し変えるだけで、素晴らしく収益性の高い事業計画ができあがるのです(あくまでもスプレッドシート上は、です)。
事業当初からロケットスタートで積み上がる売上、驚くほど高い利益率……。私にプレゼンをする起案者の中には、そうした現実離れした計画を持ってくる者もいました。高収益の事業計画を立てれば、簡単に私からの承認が得られると思っていたのでしょう。当時の彼らにとっては、事業を成功させることではなく、私の承認をとりつけることがゴールになっていたのです。
こうした非現実的な計画を聞かされるたび、私は彼らによく言っていました。「大人を舐めてはいけないよ」と。承認者は、スプレッドシート上にいかに見栄えのよい数字が並んでいるかなど気にしていません。ちょっと操作するだけでいかようにでも変わってしまう変数など、事業計画の本質ではないからです。
そんな些末なことより承認者が知りたいのは、こういうことです。
最終的に収益を大きくするために、今まだ我々が分かってないどのような仮説を起案者は立てているのか。何にチャレンジしようとしているのか。
何かにチャレンジするには、当然お金が必要になります。チャレンジがうまくいくかどうかも、当然のことながら分かりません。しかしだからこそ、この事業計画においてまだ検討が甘い、不確実なポイントを知りたいのです。
承認者は、起案者に厳しい質問をして夢を挫いてやろうとなど思っていません。起案者の夢のような事業計画を一緒に実現するために、知恵、汗、そしてお金を使いたいのです。
前回も示した、MITのダニエル・キム教授の「関係の質」をもう一度見つめ直してみてください。
(出所)泉山塁威氏によるダニエル・キム「組織の成功循環モデル」の図式をもとに編集部作成。
対話とお互いの尊重によって「関係の質」を高めることを起点にして好循環が生まれ、成果へと結びつく。「彼は、彼女は、期待していたとおりの成果を出してくれた」という揺るぎない事実が、ステークホルダー間の信頼関係をより強固なものにしてくれるのです。
あなたもぜひ、次に事業計画書を作成する際、本稿でお話ししたポイントを念頭に取り組んでみてください。
この一連のプロセスをうまく成し遂げたとき、ビジネスパーソンとしてのあなたの実力は間違いなく、一回りも二回りも大きくなっているはずです。
※本記事は2021年8月6日公開の記事の再掲です。
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