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概要:最新10月の国際収支統計は、1月以来今年2度目となる経常赤字を記録しました。原油や天然ガスの輸入価格高騰による貿易赤字が主因です。経常赤字を改善する「別手段」として、専門家は訪日外国人観光客に注目します。
財務省が12月8日に発表した10月の国際収支統計は、経常収支がマイナス641億円と、1月以来となる年内2度目の赤字を計上した。10月の赤字は、統計上比較可能な1985年以降で2度目で、マイナス162億円だった2013年以来だ【図表1】。
【図表1】日本の経常収支の推移(季節調整済み)。
出所:財務省資料より筆者作成
年初来(1~10月)の累計経常黒字は9兆6960億円。同期間の経常収支について、パンデミック直前の3年平均(2017~2019年)は18兆7480億円なので、パンデミックやロシア・ウクライナ戦争を経て、日本の経常黒字は半分程度の水準まで落ち込んだ感がある。
なお、10月は円安・ドル高が152円付近まで進んで年初来高値(10月21日)をつけ、原油価格のピークアウトはまだ十分に(国際収支統計のベースになる)輸入額に織り込まれていない時期。
そのため、今後は輸入額の減少に引っ張られる形で、貿易収支ひいては経常収支が改善に向かうと予想される。
ただし、足元の原油価格(WTI原油先物)は1バレル70ドル強で、100ドルを超えていた春から夏のピーク時に比べて下がったとは言え、平均60ドル強で推移していた2017~2019年を上回る水準だ。
その背景に、脱炭素の流れの中で進む化石燃料の供給能力低下、ロシアからの供給減少、経済安全保障の観点から進められているサプライチェーン再構築によるコスト上昇などがあるとすれば、原油価格がこれからさらに下がる展開を期待していいのか、議論の余地がある。
もし高止まりが続くとなれば、輸入額の4分の1を鉱物性燃料(液化天然ガス、原油および粗油など)が占める日本にとっては、ある種の構造変化と位置づけるべきだろう。
1バレル平均60ドル強で推移した2017~2019年当時、日本の貿易収支は月次で均(なら)すと平均1700億円程度の黒字とは言え、2018、2019年と連続で貿易赤字を出している。
要するに、原油価格がその水準まで下がってようやく貿易収支が均衡に近づくのが日本の実態であり、原油価格が下がったからと言って、V字回復で貿易黒字を期待できるわけではないことにも注意したい。
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1ドル134円「円安は終わった」説への強烈な違和感。「安い日本」に変わりはないのに…
「旅行収支の黒字」が重みを増してきた
資源輸入価格の低下以外で今後、日本の経常収支が改善に向かう展開があるとすれば、旅行収支の黒字拡大に伴うサービス収支の改善だ。
鎖国と揶揄(やゆ)されたコロナ水際対策が大幅緩和された10月、訪日外国人観光客数(いわゆるインバウンド)は49万8600人と、その前月の20万6500人から倍増。その結果は旅行収支にも反映され、10月は430億円の黒字を記録した。
2020年1月以来、すなわちパンデミック発生後では最大となる黒字だが、当時の旅行収支は2962億円の黒字で、現在の数字を7倍近く上回る。
人数で見ても、2019年10月の249万6568人に対し、2022年10月は49万8600人だから、回復と言っても2割程度にすぎない。端的に言って、正常化と言うにはほど遠い状況だ。
日本のインバウンドにはもともと、春夏(4~7月頃)が多く、秋冬(9~2月頃)に少ないという季節性がある【図表2】。したがって、旅行収支が往時の迫力を取り戻せるかどうかは、2023年春先以降の展開にかかってくる。
【図表2】訪日外客数の推移(月次)。
出所:日本政府観光局(JNTO)資料より筆者作成
旅行収支はいまや日本にとって貴重な外貨獲得手段となったものの、為替の需給ひいては日本経済に与える影響は大きいとまでは言えない。ただ、小さいと言えるほどの規模でもない。
例えば、年間3200万人のインバウンドが訪れていた2019年の旅行収支は、グロス(受取)ベースで約5兆円、ネット(収支)ベースで約2.7兆円の黒字だった。この旅行収支黒字こそが、慢性化していたサービス収支の赤字を均衡近くにまで押し上げる原動力になっていた【図表3】。
【図表3】サービス収支と訪日外客数の推移。
出所:日本銀行資料より筆者作成
15~20兆円の経常黒字を毎年コンスタントに稼いでいた当時は、こうした旅行収支黒字の存在感が際立って認識されることはなかったが、いまや状況は変わって、日本経済は10兆円の経常黒字を稼げるかどうかという凋落ぶり。3~5兆円規模の潜在的黒字が想定される旅行収支は、もはや無視できない存在になっている。
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「為替介入は円安を止められないのでは?」誰もが抱く疑問の答え。結局、貿易赤字を減らさないと…
「外国人の財布」に依存するのは必然
日本人の実質所得環境が悪化して改善の兆しが見えない中で、「外国人の財布」に消費・投資意欲を発揮してもらうしかない状況はこれからも続くだろう。
ヒト・モノ・カネは基本的に合理的な意思決定に従うので、コロナ禍の鎖国政策のごとき特殊な障壁を設けなければ、日本人の意思に関係なく自然とそうなっていくはずだ。
その結果、何が起きるか。
おそらく、東京を中心として外国人の消費・投資意欲に近いものから物価が引き上げられていく未来が予想される。そうした流れは、宿泊や飲食などの分野ではパンデミック以前から起きていた。
言い換えれば、日本はこれまで安い円を武器に自動車などの「財」を輸出してきたが、今後はそれが観光など「サービス」の輸出に置き換わっていき、結果としてその部分から諸外国との物価格差が埋まっていくという話だ。
財の輸出を主体としていた時代は、貿易黒字によって名目ベースの円高が起きやすかった。サービスの輸出でも旅行収支黒字が稼がれるものの、そこで起きるのは円高ではなく、外国人が入ってくることによる国内の物価上昇ではないかと思われる。
貿易量や物価水準を踏まえて算出された「通貨の実力」を示す実質実効為替相場(REER)は、【図表4】から一目瞭然のように、ほぼ半世紀ぶりの円安水準にある。
【図表4】円の実質実効為替相場と長期平均の推移。
出所:国際決済銀行(BIS)資料より筆者作成
この状態が是正されるには、(a)名目ベースの円高(b)国内物価の(海外と比較した相対的な)上昇、が必要になる。これまでは(a)が作用しやすかったが、今後は外国人による消費・投資にけん引されて(b)が強く作用する展開になると筆者は考えている。
過去の経緯から「いつかは円高に戻る」との見方が日本ではいまだに根強いように感じられる。しかし、名目ベースで一時的に円高方向へ振れる局面はあるにしても、実質ベースでの円安が近い将来終わる展開はあまり想像できない。
それは外国人にとっての「安い日本」が当面続くことを意味する。
※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。
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