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概要:不況の足音が迫り、マーケターたちはこれまで頼りにしてきたチャネルを選別するモードに入っています。そんななか、TikTokに対するマーケターたちの認識は「克服すべき課題を残しながらも、やはり投資に値する」ということのようです。なぜTikTokへの支持が高まっているのか、その背景を探ります。
※この記事は、ブランディングを担う次世代リーダー向けのメディアDIGIDAY[日本版]の有料サービス「DIGIDAY+」からの転載です。
TikTokに対するマーケターたちの認識は、「克服すべき課題を残しながらも、やはり投資に値する」というもののようだ。
TikTokにとっては前途明るい評価といえるだろう。2023年を迎えた広告業界では、潜在的な不況が迫るなかで、マーケターたちはこれまで頼りにしてきたチャネルに選別の目を向けている。そして全体的に、TikTokという短編動画投稿アプリに寄せる彼らの信頼は堅いようだ。エスティローダー(Estee Lauder)、スピンドリフト(Spindrift)、スーパーガット(Supergut)らを見れば自明だろう。
とはいえ、これらのブランドはいまも試行錯誤の最中にあり、TikTokへの広告出稿がどのような意味を持つのか模索を続けている。精査のレベルはほかのプラットフォームの域には達していない。マーケターたちの現在位置は、ひとつのプラットフォームと安定的な関係を結ぶに前に通過する、いわば「発見」の段階といったところだろう。
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TikTokへの支持が高まる背景
TikTokは広告主に寄り添い、彼らの広告予算を獲得するために、できることは何でもやってきた。2022年だけを見ても、TikTokの広告フォーマット、パーソナライゼーション機能、入札戦略は格段に洗練化された。
第一に、広告フォーマットや広告ユニットの選択肢が広がった。ファンバイツ・バイ・ブレインラブズ(Fanbytes by Brainlabs)で戦略責任者を務めるトム・スウィーニー氏によると、「以前は、有料広告のスポンサードハッシュタグや、ブランド動画の宣伝くらいしかなかった」という。同氏はさらに、「最近、ある映画館が映画の上映時間を告知して、アプリ内で予約できるようにしているのを目にした」とも述べている。
この1年で、パーソナライゼーション機能も強化した。スウィーニー氏によると、以前は大まかなデモグラフィックベースのターゲティングしか利用できなかった。しかし現在では、ユーザーのコンテンツ消費に基づく深い心理学的データを保有しており、それを広告主と共有することにも前向きだ。
「パーソナライゼーションの選択肢も悪くないレベルになってきた」とスウィーニー氏は話す。「インスタグラムやフェイスブックなど、AI(人工知能)や機械学習に頼って広告を配信するプラットフォームよりも、ユーザー心理に基づいている。おそらく、TikTokは高精度なターゲティングの最後の砦だ。TikTokがほかのプラットフォームとは一線を画し、この方向に進んだのは実に興味深い」。
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エンゲージメントを重視した新たな機能も
新たな入札戦略も導入され、2022年10月には「フォーカストビュー(Focused view)」も本格始動した。これは視聴者が動画広告の再生終了を漫然と待つのではなく、実際にエンゲージメントが発生するように設計された新たな広告機能である。
YouTubeには再生開始から5秒間はスキップされない広告メニューがあるため、広告主たちはこのTikTokの新機能をYouTubeと競合するものと見ているようだ。
一方、TikTokが提案するスキップされない動画の冒頭部分はYouTubeよりも長い。TikTok動画が典型的なYouTube動画よりもはるかに短いことを考えれば、やはりGoogleを競合視しているのだろうとスウィーニー氏は指摘する。
同氏はさらにこう話す。「ストーリーテリングが広告の重要な位置を占めるなら、それはすばらしいことだ。クリエイティブはいまや広告のもっとも重要な側面であり、TikTokはその証明に大きく貢献している。とくにほかのプラットフォームでは、ブランドは単なる配信よりも、クリエイティブに多くの予算を投入している」。
メディア予算についても同じことがいえる。たとえば、センサータワー(Sensor Tower)の調べによると、Disney+(ディズニープラス)は2022年第1四半期には300万ドル(約38億円)弱だった広告費を、第3四半期には1790万ドル(約230億円)に増額した。もともとの広告費が同業他社よりはるかに少ないとはいえ、いきなりの498%増である。
ほかの広告主も同じ方針のようで、デジタルメディア企業のマンモスメディア(Mammoth Media)を創業し、CEOを務めるブノワ・ヴァテレ氏はこう説明する。「マンモスメディアの取引先ブランドにも同様の傾向が見られ、こぞってTikTokへの広告支出を増やしている。フェイスブックではコストが上がる一方、パフォーマンスは低下しており、その不満がTikTokへのシフトを加速させている」。
デジタルマーケティングエージェンシーのパワーデジタル(Power Digital)では、TikTokの予算が平均で前年比100%以上伸びている。ブラックフライデーとサイバーマンデーの週に支出した広告費の増加はとくに顕著で、前年比170%増だった。パワーデジタルで最高成長責任者を務めるロブ・ジュウェル氏はこの点についてさらに詳しく述べている。「TikTokでの広告運用のROIは今後も継続的な向上が見込まれるため、2023年も同様の成長軌道が続くだろう。とくに美容やファッションなど、ビジュアルファーストの業界では、TikTokのセールスコンバージョンはメタ(Meta)の6倍に達する」。
TikTokが今年実行したさまざまな改善は一部のブランドに確実にプラスの効果をもたらしている。実際、複数のエージェンシー幹部が、クライアントの予算シフトを目の当たりにしている。アディダス(Adidas)、サムスン(Samsung)、ピザハット(Pizza Hut)などのブランドを扱うアイリス(Iris)でソーシャルの責任者を務めるベス・キャロル氏によると、いまや同氏が担当するクライアントは、メディアプランの策定でTikTokをメタと同様の優先度で遇するほどだという。
成熟に向かうTikTok
ゼニス(Zenith)傘下のパフォーミクス(Performics)でパフォーマンスメディアの責任者を務めるリース・ウェストウェル氏は、「この1年で、TikTokは単なる実験的プラットフォームから、より成熟したソーシャルアプリに成長した」と考えている。
「デジタルの視点で見るなら、認知度向上の施策やブランドキャンペーンに関する限り、TikTokはYouTubeとメタに続く第3のプラットフォームだ」とウェストウェル氏は述べている。
しかし、機能更新やイノベーションが広告主たちを魅了しているのは確かだが、コンバージョンにはまだ改善の余地がある。
パフォーマンスマーケティングエージェンシーのクラウド(Croud)でビッダブルメディア部門を統括するトーマス・エスポジート氏は、担当するクライアントのTikTok施策の大半は依然として実験的色合いが濃いと述べている。そのため、ほかのプラットフォームと同じKPIや期待値に縛られることはないという。
それも道理だと、ソーシャルエレメント(The Social Element)でソーシャル責任者を務めるエイミー・ギルバート氏は話す。有料広告に関する限り、ほかのプラットフォームと同じやり方では、TikTokでは効果を上げることが難しいという。「ほかのプラットフォームであれば、どこでも通用する一般的な広告で済むかもしれない。しかしTikTokでは、TikTokに特化したネイティブコンテンツが必ず必要になる」。
しかし実際には、一度ブランドが始めた広告出稿は、たとえ実験でもおいそれとは止まらない。
実験に終わりはない
たとえば、ファンバイツは、TikTokに備わるクリエイティブかつ文化的な影響力に後押しされて、TikTok広告が大幅に増加するのを目の当たりにしてきた。スウィーニー氏によると、マーケティング予算に占めるTikTokのシェアが伸びるとしても、それは同社のテクノロジーや広告商品の優位性によるものでは必ずしもないという。TikTokに対するブランドの信頼が深まるに伴い、予算全体に占めるシェアも自ずと伸びる。
パフォーミクスのウェストウェル氏もこう述べている。「今月の楽曲とか今月のチャレンジとか、最新のトレンドやアプリの利用傾向に注目すれば、収穫は大きく増えるだろう」。
ソーシャルコンテンツとソーシャル広告をどう作り、どう消費すべきか。TikTokはマーケターたちにその再考を迫っているともいえる。
インサイダーインテリジェンス(Insider Intelligence)によると、D2Cブランドが2022年第2四半期にTikTokで支出した広告費は前年比231%の大幅増となった。また、アナリティクス企業のトリプルウェール(Triple Whale)の調べによると、この大幅増を牽引したのは、主に売上高100万ドル(約13億円)から500万ドル(約64億円)のブランドであるという。
TikTokがメタやYouTubeと肩を並べる一方、後者のような旧来の大手SNSアプリはひとつの変曲点を迎えており、彼らの広告事業は大きな困難に直面している。TikTokにとっては、彼らから広告収入の一部をかすめ取る好機到来といえるかもしれない。
今後の課題
もちろん、TikTokにはTikTokなりの問題がある。誤報やデマの類い、親会社のバイトダンス(ByteDance)を介した中国との結びつきによるセキュリティリスクなどはとくに深刻だ。たとえばつい先ごろ、対中国のセキュリティリスクを理由に、米国の議員たちは連邦および州のレベルで、政府の職員が政府支給の端末やコンピュータネットワークを使ってTikTokを利用することを禁じる法案を提出した。
とはいえ、どんなプラットフォームであれ、マーケターたちが投資先を決める根拠は、ユーザーの支持とそこそこのROIを出せる能力にほかならない。そしていまのところ、それを持ち合わせているのはTikTokだ。そのため、セキュリティリスクのような問題に配慮するとしても、ブランドの評判に実質的な傷でもつかない限り、配慮を義務づけられた範囲内で配慮するにとどまるだろう。
マーケターたちにしてみれば、TikTokへの投資を保留して、どこか別の場所でリーチを稼ぐとか、もっと安全な広告配信先があるはずだとか、そういう希望的観測に頼ってばかりはいられない。なぜなら、そんな場所は存在しないからだとスウィーニー氏はいう。
「TikTokが登場してからすでに十分な年月を経ているし、その効果を証明する事例も十分に蓄積されてきた」とスウィーニー氏は話す。「クリエイティブは圧巻だし、我々のような専門のエージェンシーも存在する。前途有望なブランドに驚異的な成果をもたらし、その売上にも大きく貢献している」。
「TikTokはもはや単にブランド認知や再生回数を上げるためのプラットフォームではない。いまやフルファネルの広告商品ともなりうる存在だ」。
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