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概要:ここ数年で「KPI」という言葉をビジネスの現場でよく耳にするようになりました。しかし実は誤解も多く、間違った定義のままKPIを設定して組織の混乱を招くというトラブルも。リクルートで11年間にわたりKPIマネジメントの社内講師を務めてきた中尾隆一郎さんが、その正しい実践方法をわかりやすく解説します。
「KPI」という言葉をビジネスの現場で耳にする機会が、ここ数年で急激に増えましたね。
後段で詳しくお話ししますが、KPIとはKey Performance Indicator、つまり「事業成功の鍵」を「数値目標」で表したものです。
KPIがこれほど市民権を得るようになった要因としては、DX(デジタル・トランスフォーメーション)の進展に伴い、ウェブでビジネスをするサービスが増えてきたという背景があります。結果、さまざまなデータを把握できるようになり数値管理がしやすくなったことで、KPIを活用する会社が増えてきたというわけです。
「KPI」は誤解だらけ
ただ一方で、これほど広く使われるようになると、KPIについて間違った解釈をしている会社もかなり散見されます。例えばあるシンクタンクのホームページには、KPIの説明としてこんな記載があります。
「通常、KPIというと、EVAや営業利益率といった会社全体での財務指標がまずイメージされますが、それだけではありません」
この記載のどこが問題なのか、みなさんは分かりますか? この他にも巷間でよく見かける誤った記述のうち典型的なものを挙げてみると——
「多数の数値」を管理することをKPIだと考えている
売上や利益、あるいはそれらの率といった「結果指標」をKPIだと考えている
自分たちで「コントロールできない」景気指標をKPIだと考えている
1はKPIマネジメントではなく、数値管理ですね。
2の売上や利益はもちろん重要な指標ではありますが、これらはプロセス指標ではなく結果指標。これも後ほど詳しく説明しますが、こうした結果指標は「KGI(Key Goal Indicator)」にはなりえても、KPIにはなりません。先ほどのシンクタンクの例も、「財務指標」という結果指標をKPIと言っている時点で疑問符が付くわけです。
3については、例えばGDP(国内総生産)をKPIにしているようなケースです。こうした景気指標は、売上予測などに活用しうるという意味では重要ですが、一企業がコントロールできるものではないのでKPIにはなりません。
こんな間違ったKPIもどき(つまりそれはKPIではない)を使っている人が「KPIは使えない」と言っているのを耳にすることも少なくありません。KPIを正しく活用しているのに使えないというのであれば仕方ありませんが、そもそもの定義が間違っているのに「使えない」と言われたのでは、KPIがかわいそうすぎます。
KPIを正しく使えば「自律自転する組織」に
なぜ私がこんなにKPIの肩を持つのかというと、私はリクルート在職時にKPIマネジメントを実践して既存事業を成長させ、新規事業を立ち上げ、全社のIT化を進めるなどしてきたからです。
その経験が元になって、リクルートでは11年間にわたってKPIマネジメントの社内講師を務め、1100人に教えました。
加えて独立後は、上場企業から中小企業、病院、市役所まで、さまざまな組織に対してKPIマネジメントの導入支援をしています。これらの経験を踏まえて、KPIマネジメントに関する書籍も2冊出版しました。
こうした経験から実感を持って言えるのは、KPIマネジメントを導入すると、事業にとって今一番強化しなければならないことが明確になるということ。ひいては、現場のメンバーがやるべきことも明確になる、ということです。
やることが明確になると、現場のメンバー1人ひとりが工夫するようになります。つまり自分で考え、自分で行動するようになる。まさに「自律自転」している状態です。このように、KPIマネジメントを正しく導入すると、結果的に「自律自転する組織」になるのです。
そこで今回は、正しく使えば非常にパワフルな効果を発揮する「KPIマネジメント」の実践方法についてお話ししたいと思います。
ありがちな「間違ったKPIマネジメント」
まず、よくある「間違ったKPIマネジメント」の手順を見てみましょう。後ほど「正しいKPIマネジメント」の手順も示しますが、両者を比較することで、うまくいかないKPIマネジメントにはどこに問題があるのかが浮き彫りになります。
よくありがちな間違ったKPIの手順は、例えばこんな感じです。たいてい6つのステップからなります(下図)。
筆者作成
さすがにここまでひどい例は最近それほど見かけませんが、たくさんのデータを集めて、それをもってKPIマネジメントだと言っているケースは実によく散見されます。「どの数値も重要だ」というわけですが、これでは話になりません。
KPIマネジメントの4大登場人物
次に「正しい手順」を見ていきますが、その前に、KPIマネジメントを上手に使いこなすうえでの基礎知識を頭に入れておいてください。
KPIマネジメントで最もよく知られた“登場人物”は言うまでもなくKPIですが、実はこの他にも、実践するにあたって覚えておいていただきたい主要登場人物があと3つあります。私はこれらをまとめて4MC(4 Main Character)と呼んでいます。
Goal:最終的に到達したいゴール。利益、売上、ユーザー数など。
KGI(Key Goal Indicator):Goalを数値目標で表したもの。
CSF(Critical Success Factor):ゴール到達のために最も重要となるプロセス。KFS(Key Factor for Success)やKSF(Key Success Factor)とも呼ばれる。
KPI(Key Performance Indicator):事業成功の鍵(=CSF)を数値目標で表したもの。
これら4つは、下図のような関係性で表すことができます。つまり「Goal」は言葉で、「KGI」はその数字。この2つで一組です。同じく「CSF」は言葉で「KPI」がその目標数値、という関係です。
筆者作成
上図を見ると、CSFの下部に「ゴール達成のためのプロセス」と書かれたフローチャートがついていますね。これは、商品開発、製造、マーケティング、営業、納品、顧客対応……などのプロセスのことです。
さらに図をよく見ると、その中から「1つを選択」とあり、CSFには「最重要プロセス」と書かれています。つまり、複数あるプロセスの中から、最も重要なプロセスを1つだけ選ぶということです。
この「最重要」を選ぶのがKPIマネジメントの勘所です。「最重要」とは、表現を変えると「最も弱い」プロセスのこと。成果はビジネスプロセスの「最も弱い」プロセスの影響を受けますから、そこを強化しない限り、全体の成果は上がらないのです。
プロセスの中で「最も弱い」プロセスを特定し、それをCSFに据えます。そして、それをどれくらい強化すれば「最も弱い」プロセスを脱出できるのか、数値目標として置いたものが「KPI」ということです。
KPIマネジメントを実践したことで最初に据えたCSF(つまり弱点)が解決できたら、今度はその次に弱いプロセスをCSFに据えます。つまり、その時点で「最も弱い」プロセスを順番に強化していくことこそが「KPIマネジメント」なのです。
「正しいKPIマネジメント」はこの手順
では、正しいKPIマネジメントの手順を見ていくことにしましょう。先ほどの「間違ったKPIマネジメント」と比べて、どこがどう違うかを意識しながら読み進めてみてください。
正しいKPIマネジメントのステップは10あります。10というと多いと感じる方もいるかもしれませんが、これはプロジェクトを進める際の標準的な手順(PIMBOK:Project Management Body Of Knowledge)に準拠しています。
各ステップの詳しい解説は中尾隆一郎著『最高の結果を出すKPIマネジメント』を参照。
筆者作成
正しい手順では、KPIを考える前の1~3で、自分たちのゴールとKGIを確認します。そして、このままだとどれくらい足りないのかを把握し、ビジネスモデルを確認します。
そして、4・5でKPIを設定するのですが、特に重要なのが4の「絞り込み」です。3で確認したプロセスの中で、どこを強化しなければならないかを特定し、最も大事な箇所をCSFとするのです。大事な箇所はたくさんありますが、「最も」大事なのは1カ所のみ。その1つに絞り込むのが正しいKPIマネジメントの勘所です。
その後、6で運用性を確認し、7で事前に数値が達成できない時にはどうするのかを考えます。達成できない時には、経営資源(人やモノやカネ)の投入が必要です。これを事前に決めておくわけです。その後、関係者でコンセンサスを得て、運用を始めます。
つまり運用を始めるまでの準備が8ステップもあるのです。そして運用し始めた後も、常に「最も」大事なCSFに着目し続けて、改善をし続けるわけです。
これらのプロセスをしっかり押さえておくことで、正しいKPIマネジメントを実践することができます。
そもそも、4MCはどう把握すればいいの?
ここまでの説明で、KPIマネジメントの要点は掴んでいただけたはずです。ただし実際にKPIマネジメントを導入しようとした時、この説明だけではうまく進まないケースもあるようです。
多くの組織がつまずく最大の難所はなんと言っても、どうやって「CSF」を特定すればいいかが分からないという点でしょう。
ビジネスプロセスの中で「最も弱い」ポイントを1つだけ特定すればいい——そう頭では理解できていても、いざそれを自分の組織に当てはめてみると、あれもこれもボトルネックが見つかってしまって1つに絞れない、という声はよく耳にします。こんな時にはどうすればいいのでしょうか?
私がお勧めするのは、4MC確認のためのワークショップを実施するというやり方です(下図)。
このワークショップにどの範囲のメンバーまでを巻き込むかは、組織文化によるところが大きい。最小単位で実施する場合、1の「個人ワーク」を行うのは各ビジネスプロセス(開発、製造、営業、納品、CS)担当のリーダーということになる。
筆者作成
まず、個人で4MCを考えます(ステップ1)。次にグループで意見交換し、4MCを確定します(ステップ2)。続くステップ3では、ビジネスプロセスを超えた幹部間で何が4MCかを対話します。これを繰り返す中で、4MCを確定していくというものです。
実は、この対話にこそ価値があります。特にステップ3の、部署をまたいでの幹部間の対話は極めて重要な意味を持ちます。極論すると、KPIマネジメントの最重要ポイントは、この幹部間の対話にあると言っても過言ではありません。この対話でコンセンサスを得られたものが、4MCになるのです。
ひとたび運用が始まったら、一度決めた4MCは定期的に見直してください。見直すタイミングは、KPIの達成見込みが立った時点。つまり、KPIを達成するということはイコール、そのCSFが「最も弱い」プロセスではなくなった、ということです。
「アジャイル」をご存知でしょうか。これはシステム開発から生まれ、現在さまざまな部署で活用されている考え方。1〜2週間ごとに関係者が集まり、次の1〜2週間で何をするのが最も生産的かを決めるというものです。
このアジャイルと同じように、KPIマネジメントも定期的に状況を確認し、KPIが達成できたら次のCSFを強化するようにします。これも重要なポイントです。
次回は、具体的な事例とともにKPIマネジメントの実際や、つまずきやすいポイントについて見ていくことにしましょう。
※この記事は2021年4月2日初出です。
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中尾隆一郎:中尾マネジメント研究所代表取締役社長。1989年大阪大学大学院工学研究科修了。リクルート入社。リクルート住まいカンパニー執行役員(事業開発担当)、リクルートテクノロジーズ社長、リクルートワークス研究所副所長などを経て、2019年より現職。株式会社「旅工房」社外取締役、株式会社「LIFULL」社外取締役、「LiNKX」株式会社非常勤監査役、株式会社博報堂DYホールディングス フェローも兼任。新著に『自分で考えて動く社員が育つOJTマネジメント』がある。
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