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概要:2022年下半期以降、 D2Cスタートアップの資金調達環境は陰りを見せていますが、2023年も緩和のきざしは見えません。中には成長よりも収益性を優先する投資家もおり、D2Cスタートアップは戦い方の変更を迫られています。
昨年終わりにかけて、D2C新興企業の資金調達の環境はしだいに厳しくなっていった。そして、2023年にも緩和のきざしは見えない。
裏付けに乏しいながら、D2Cの創業者は昨年から、契約の締結までの時間が長くなり、評価額が低減する傾向があると述べてきた。現在では、資金調達がどれだけ激しく減少しているかが新しいデータから明確になっている。今月初頭のピッチブック(Pitchbook)のレポートでは、VC(ベンチャーキャピタル)契約の数は、2021年の1万8521件から、2022年は推定1万5852件に減少したことが示されている。
特にD2C新興企業は、多くの課題に直面し、ラウンドの完了が困難になっている。これまで消費者向けブランドに特化してきた一部の投資家は、消費者テックや企業向けソフトウェアに重点を置くようになった。成長よりも収益性を優先しつつある投資家もいる。これに対して多くの投資家は、現時点で資金調達にもっとも有利な新興企業は、市場の条件が今年どのように変化しても、自社が収益性のある方法で成長を続けられると、投資家を納得させられる企業だと語った。
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収益性を維持できる企業
セルバベンチャーズ(Selva Ventures)のマネージングパートナーであるキバ・ディッキンソン氏は次のように述べている。「人々が投資先にしたいのは、今すぐにキャッシュを必要としない企業だ。キャッシュを必要としない企業とは、利幅とリピート購入が多い企業だ」。
実際に、はじめて起業する者や、過小評価されている背景を持つ創業者を回避し、何度も企業設立を行っている創業者や、経験を積んだエグゼクティブチームを支援する投資家が増えているようだ。現在ラウンドの完了に苦戦しているブランドは、さらに多くのブリッジラウンドに頼り、既存の投資家により頻繁に資金を求める可能性がある。一方で、独自のサービスや能力によりリピート購入を促進できるブランドは、現在有利な位置にある。
しかし、消費者成長普通株企業のアリアグロースパートナーズ(Aria Growth Partners)のパートナーであるジャッキー・ダンクラウ氏によれば、投資家が「当然投資する」と言うことができない新興企業は、ラウンドの完了に長い時間を要するようになってきている。
「二分されてきている」と、同氏は述べる。アリアグロースパートナーズの投資方針は、消費者向け投資家のあいだで一般的になりつつあるもので、「効率的な」企業に特化するということだ。たとえば、前年比で100%成長しているが収益性を達成していない企業ではなく、毎年30〜50%成長しながら、しかも収益性を維持できる企業を意味する。
「存続可能なビジネスモデルが存在するか」
しかし、それががどのようなものか、そして投資家はどのようにしてこれらのビジネスを、特に早期段階で見つけるのかは、話をする投資家によって異なる。早期段階VC企業のリーラー・ヒッピー(Lerer Hippeau)のパートナーであるケイトリン・ストランドバーグ氏は、「1ラウンドか2ラウンドの資金調達を成功させられ、正のEBITDAを達成するまでの軌道に、非常に説得力のある消費者向け企業」を求めていると語った。
アリアは一般に後期段階への投資を行うが、同社はビジネスの効率性を評価するために、リピート購入率と顧客獲得コストに加え、粗利益率を評価すると、ダンクラウ氏は述べている。同社は、収益が500万ドル(約6億5000万円)から3000万ドル(約39億円)に達したブランドの少数株を引き受ける。
「最初に粗利益率が良好でなければ、企業の規模がどれだけ大きくても、P&L(利益と損失)は機能しない。当社は多くの時間をかけてこれを分析し、粗利益率の観点から存続可能なビジネスモデルが存在するかを確認している」と、同氏は述べている。
差別化要素を持つ企業
D2C専業ビジネスモデルからの脱却も、物事に影響を及ぼしている。2010年代前半にボノボス(Bonobos)やワービーパーカー(Warby Parker)などのブランドが、投資家にとって魅力的だったのは、それが主にD2Cモデルであることだったからだ。今日ではD2Cをビジネスモデルではなくチャネルのひとつとみなし、Amazonや実店舗小売のようなチャネルへの展開を強めるブランドが増えてきている。
リーラー・ヒッピーのストランドバーグ氏は、同社が取引を評価するときは、「ブランドにフォーカスすることから、真の技術的な差別化を重視することにシフトしつつある」と語る。同氏は、技術的な差別化の例として、人々の健康を評価するための独自ツールを持つ企業や、ChatGPTなど話題の技術を消費者向けに応用したアプリケーションを保有している新興企業を挙げている。
食料品や飲料など、卸売が重要になるカテゴリーでは、小売でのセルスルー率がさらに重要となる。また、大手小売業者で販売するのが簡単で効率的な特定のカテゴリーが、さらに注目を集めつつある。
「資本効率が高い消費者向け商品の企業は、投資家にとってより魅力的であり、食料品や飲料は一般的に、たとえば美容品やパーソナルケアよりも資本効率が低い」と、ディッキンソン氏は述べる。
一方で、長期保存可能な商品を販売する、あるいはビタミンのような「性質上極めてルーチン的な」商品を販売するCGP新興企業は、現在関心を集めつつあるようだと、同氏は述べている。
ブリッシュ(Bullish)のパートナーであるマイク・デューダ氏は、現在関心を抱いているビジネスの種類のひとつは、マーケットプレイスやテレヘルスなど、「強力なサービス要素」も持ち合わせている消費者向け新興企業だと語る。
パンデミック時とは異なる評価
このような収益性、リピート購入率の高さ、実績のあるけん引力に新たに着目することは、パンデミックの最中にベンチャー投資を支配したFOMO主導の考え方とは完全に対極的なものだ。2021年にベンチャーキャピタル資金が過去最高に達したとき、多くの投資家は次の大きな新興企業を取り逃すことを恐れ、暗号通貨や15分配達などの新しい分野に競って投資していた。
しかし、これらの投資のなかには、成功しなかったものもあった。ワンクリック決済の新興企業であるファスト(Fast)はこのような過剰投資時代のもっとも顕著な代表例だったろう。同社は投資家から1億2000万ドル(約156億円)を集めたあと、約1年半後に倒産した。
デューダ氏は、投資家たちは現在、「何かを行わない理由ではなく、行う理由を探している」と表現している。
これは、書類上ではこの新しい陰うつな資金調達環境に適しているように見える消費者向けブランドでも、容易に資金を調達できるとは限らないということだ。たとえば、デューダ氏は、同氏のポートフォリオ企業のうち3社が、シリーズBまたはそれ以降のラウンドで資金調達を行っていると語る。これら3つの企業のうち、利益を上げており、「ホームラン」とも言うべき企業があるが、これは妥当だと同氏が考えるような評価を受けていない。一方、もう1社は、「利益を上げていないが、非常に堅調な成長を見せ、リピート購入率も高く、おそらく過剰なほどの申し出があるだろう」と、同氏は語る。
チャンスはあるが、時間がかかる
私が対談した投資家の多くは、この陰うつな資金調達環境は2023年も続き、創業者たちもそれに応じて計画を立てる必要があるだろうと語った。
「コスト削減が可能なら、あとで行うよりも早く行った方がいい。キャッシュのランウェイよりも回収に時間がかかるものに投資してはならない。また、投資家たちは、2023年には、成長よりも、存続していて健全なことのほうを評価する、ということを覚えていてほしい」と、ディッキンソン氏は助言している。
デューダ氏は次のように述べている。「起業家にとって好ましい環境ではない。チャンスがないということではないが、ただ、3倍も時間がかかるということだ」。
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