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概要:経済産業省の研究会が議論しているM&A(企業の買収・合併)当事者のための行動指針が国内外の投資家の注目を集めている。企業の価値を高める買収を促すのが研究会の狙いで、事務局を担当する同省の安藤元太産業組織課長は「資本市場の関係者からも理解される内容にしたい」と語る。一方、国内外の投資家は、同指針が買収を阻止するための経営陣の口実に使われないように注意する必要があると指摘する。
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[東京 25日 ロイター] - 経済産業省の研究会が議論しているM&A(企業の買収・合併)当事者のための行動指針が国内外の投資家の注目を集めている。企業の価値を高める買収を促すのが研究会の狙いで、事務局を担当する同省の安藤元太産業組織課長は「資本市場の関係者からも理解される内容にしたい」と語る。一方、国内外の投資家は、同指針が買収を阻止するための経営陣の口実に使われないように注意する必要があると指摘する。
経済産業省の研究会が議論しているM&A(企業の買収・合併)当事者のための行動指針が、国内外の投資家の注目を集めている。都内のビジネス地区で2016年2月撮影(2023年 ロイター/Toru Hanai)
経産省がM&Aの行動指針作りに乗り出したのは、近年増加している敵対的な買収を含めた包括的なガイドラインが存在しないためだ。買収防衛策や親子上場解消の買収など、特定の買収や一部の手続きに関する指針は公表済みのため、「ややバランスを欠いている」(安藤氏)と判断した。
日本企業による海外企業の買収と比較して、日本企業を対象とした買収は低調で、結果的に産業競争力向上に必要な事業再編や新陳代謝が滞り、「リソース配分の最適化が起こりにくくなっている」(同氏)という問題意識が背景にある。
特に、対象会社の賛同を得ずに行う買収については、経営陣が受け取った提案を取締役会に付議しないまま拒否したり、「敵対的」とみなされて買収防衛策を発動されるリスクを恐れ、買収側が躊躇(ちゅうちょ)することも多かった。行動指針を示すことで、買収防衛策の濫用を防ぎ、同意なき買収も含めた日本のM&A市場の活性化を目指している。
一方、議論が進むにつれ、投資家側からはさまざまな反応があった。ロイターが取材した複数の投資家は、研究会の19人(当初17人)の委員には企業側に立って買収防衛策の実務を担ってきた弁護士が多く、偏っていると指摘した。
研究会の資料や議事録のほぼすべてが日本語のみの開示だったことも、海外投資家からは不評だったという。
また、研究会が当初示した「買収一般に関する3原則」のうち、「望ましい買収か否かは、企業価値を向上させるか否かを基準に判断されるべき」とした第1原則について、株主利益への言及がないことを疑問視する声が複数の投資家からパブリックコンサルテーションを通じて寄せられた。
「企業価値」は、企業が将来生み出すフリーキャッシュフローを収益見込みに基づいて計算し、これを現在価値に引き直したものと定義される。しかし、実際には株主以外のステークホルダーの利益も含む広い概念としてとらえられることがあり、「企業価値」を理由に株主以外の利益を優先して買収を断るといったケースも過去に存在する。そのため、行動指針案に対するパブリックコンサルテーションで寄せられた意見では、「曖昧な判断軸を許すことは経営陣の保身を招く恐れが強い」といった懸念も示された。
経産省の安藤氏によると、こうした意見を踏まえて、「望ましい買収の原則」の中に企業価値だけでなく株主利益の確保も盛り込むことを決めた。最新の案では、企業価値の概念を曖昧にして経営陣の保身や従業員を守るための道具とすべきではないという文言も加わった。これに対し、「投資家の懸念は一定程度解消された」(海外機関投資家)と評価する声が聞かれる。
安藤氏は、寄せられた懸念は理解できるとした上で、資本市場の観点で企業価値は「時価総額と負債価値の合計として表される」と述べ、株主価値と対立する概念ではないと強調する。
「公正な買収の在り方に関する研究会」は22年11月から検討を開始。 今月中に議論の内容をまとめ、指針案の英語版も準備し、改めて6月にも意見を募った上で、最終版を公表する。
(山崎牧子 清水律子 編集:橋本浩)
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