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概要:インドでは、オンラインでの言論や表現を制限する法律が強化され、政府に対する反対意見の表明への締め付けが強まりつつある。こうした中、コメディアンや著名な音楽家といった「意外な顔ぶれ」も法廷の場で異議を訴えるなど抵抗を始めており、デジタル人権擁護団体などは重要な動きとして歓迎している。
[ムンバイ 23日 トムソン・ロイター財団] - インドでは、オンラインでの言論や表現を制限する法律が強化され、政府に対する反対意見の表明への締め付けが強まりつつある。こうした中、コメディアンや著名な音楽家といった「意外な顔ぶれ」も法廷の場で異議を訴えるなど抵抗を始めており、デジタル人権擁護団体などは重要な動きとして歓迎している。
8月23日、インドでは、オンラインでの言論や表現を制限する法律が強化され、政府に対する反対意見の表明への締め付けが強まりつつある。写真は2019年6月、州当局者の名誉を棄損する内容をネットに投稿したとしてジャーナリストが逮捕されたことに抗議する人々。ニューデリーで撮影(2023年 ロイター/Anushree Fadnavis)
コメディアンのクナル・カムラ氏は、10年近くにわたり政治や社会規範に対する風刺を定番のネタにしてきたが、最近では改正IT規制法に反対して戦っている。この改正は、政府のファクトチェック部門が「フェイク、虚偽、誤解を招く」と判定したニュースの削除を、政府がソーシャルメディアサイトに要求できるようにするものだ。
カムラ氏がユーチューブ上で運営するチャンネルには200万人以上が登録しており、X(旧ツイッター)のフォロワーも240万人を数える。カムラ氏はボンベイ高等裁判所に提出した請願の中で、自分の配信するコンテンツが「恣意的なブロックや削除の対象となり、自分のSNSアカウントが凍結・停止されることで、プロとして取り返しのつかない損害を受ける」リスクがある、と述べている。
これとは別に、音楽家のT・M・クリシュナ氏も、「自由な言論に対する萎縮効果を与えるとともにプライバシー権を侵害することにより、アーティストや文化コメンテーターとしての私の権利を侵害している」として、IT規制法の条項に異議を申し立てている。
カムラ氏とクリシュナ氏の請願が成功する保証はない。だが、双方について法務支援を提供している非営利団体「インターネット自由財団」(IFF)の弁護士タンメイ・シン氏は、深刻な問題に対する関心を集めるという点で、この2人が参加した意義は大きいと語る。
シン氏はトムソン・ロイター財団に対し、「結果がどうあろうと、効果が出ている。新たに審理が行われるたびに、この問題についての会話が生まれている」と語った。
「抗議の声をあげること自体が不適切と思われてしまう時代には、こうした著名人が動くことによって、人々が憲法で保障された権利、またそれを行使する権利を思い出すことがとても重要だ」
政府はカムラ氏の請願に対する供述書の中で、ファクトチェックに関する新たなルールは「より大きな公益」に資するものであり、チェック対象となるコンテンツは政府の政策や規則に関するものに限定され、「意見や風刺、芸術表現」は含まれないとしている。
IT規制法に抵抗しているのはカムラ氏やクリシュナ氏だけではない。この法律は2021年の成立後、昨年、今年と改正を重ね、デジタルニュース媒体やソーシャルメディアサイト上のオンラインコンテンツに対する政府の権限が拡大している。
デジタル人権擁護団体と報道各社は、この法律は乱用されやすく、検閲となるリスクがあり、インドにおける報道の自由を脅かしていると主張してきた。
ラジーブ・チャンドラシーカー情報技術担当副大臣は、虚偽の情報を抑制し、掲載コンテンツについてソーシャルメディアサイトの「説明責任を強化する」ためには、この法律が必須だと述べている。
フェイスブックとXのデータによれば、両サービスに対して情報及びコンテンツに関する削除要請を最も多く出している国の1つがインドだ。
カルナータカ高等裁判所は6月、イーロン・マスク氏による買収前にXが提出した抗弁を退ける判決を下した。2021年の農家による抗議行動へのインド政府の対応を批判する投稿の削除やアカウント凍結を求めた政府の命令に異議を申し立てる抗弁だった。
この判決の中で同裁判所は、政府は投稿やアカウントを無期限に削除・凍結する権限を有しており、ユーザーに告知する必要はないとの判断を示した。デジタル人権擁護団体はこの判決に懸念を募らせた。
「表現の自由の抑圧としてあまりにも深刻で、最高裁判所の判例にも反している」と、デジタル人権擁護団体「アクセスナウ」でアジア太平洋政策を担当するナムラタ・マヘシュワリ弁護士は同判決を批判する。
マヘシュワリ氏は、「基本的人権に対する悪影響が出るだろう。透明性がなく、削除命令を公表する要件もないからだ。オンラインのコンテンツに対する政府の権限をめぐる懸念が高まっている」と言う。
情報技術省にコメントを求めたが、回答は得られなかった。
Xはこの判決を控訴し、政府がより多くの削除命令を出すことをためらわなくなり、検閲の範囲が広がると主張している。
<政府の検閲>
近年、ブラジルからインドネシアに至るさまざまな国が、虚偽情報を抑制するためだとしていわゆる「フェイクニュース対策法」を導入。ソーシャルメディアサイトに対し、命令により当該コンテンツを迅速に削除し、アカウントを凍結することを義務付けている。インドなど一部の国では、ユーザーの逮捕にまで踏み込んでいる。
人権擁護団体は、こうした法律は政府に対する反対の声を抑圧しかねないと警告している。
クリシュナ氏は2016年、伝統のカルナータカ音楽における階級主義を打破しようと試みたことを評価され、「アジアのノーベル賞」と呼ばれるマグサイサイ賞を受賞した。今回の請願の中で、IT規制法の曖昧さは「創造的なプロセスを萎縮させることにつながる」と述べている。
「このルールによって、アーティストが難しい問題を提起しにくくなってしまう。主流となっている文化的規範に対する疑問の声を抑圧してしまうだろう」とクリシュナ氏は言う。
クリシュナ氏は請願で、「明確さが欠けているため、サイト側では正統性に欠ける言論のみならず、社会的、宗教的、文化的構造の境界を拡張しようとする完全に真っ当な言論さえも排除してしまうようになる」としている。
カムラ氏はコメディアンとしての定番ネタとしてモディ首相を頻繁に取り上げてきた。請願の中でカムラ氏は、IT規制法は「(連邦政府を)唯一の真理の判定者とし、その独自の真理基準をユーザーに押しつけるようソーシャルメディアという仲介者に義務付けることで」、政府が強制する検閲に等しいものになっている、としている。
これとは別に、今月初め、163年の歴史を持つインド刑法を改正する新たな法律が可決された。デジタル人権擁護団体によれば、これにより異議申し立てや政治風刺を含むさまざまなオンライン言論が犯罪化される恐れがあるという。
新法のもとでは、インドの主権や統一性及び安全保障を損なうような「虚偽の、または誤解を招く情報」を流布することは、最長で懲役3年の刑を与えられる場合がある。
一方、クリシュナ氏とカムラ氏が提出した請願は審理中で、IFFの弁護士のシン氏によれば、インドにおける裁判手続きが「迅速でも低コストでもなく、かなりの経済的余裕と膨大な忍耐力を必要とする」ことが改めて示されたという。
だがシン氏は、だからこそ有名人が関与することに意味がある、と語る。
「有名人は、比喩的な意味で他の者よりも『声が大きい』。そういう特権をうまく使えば、人々に、自分にもそうした権利があることを思い出させ、裁判所に憲法判断を求めることができる」と、シン氏は説明した。
(翻訳:エァクレーレン)
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