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概要:シリコンバレーのテック業界では大量解雇のニュースが続き、雇用の安定性が失われかけています。これを見て「ビッグテック全盛期は終わった」と見なす向きもあるものの、実際にのところはどうなのでしょうか。
テック業界では雇用の安定性だけでなく、働くメリットさえも絶滅に瀕している。かつてシリコンバレーに漂っていた特権的な空気に恐怖が広がるなか、報酬も、企業文化も、魅力的な社員特典も、絶滅はすぐそこまで迫っていると警鐘を鳴らす声がこだまする。
「ビッグテック全盛は終末期を迎えている」とボックス(Vox)は宣言した。また、CNBCは「ビッグテックで働くという理想はその輝きを失いつつある」と報じる。さらに、「主要な投資家はGoogleのオーナーに積極的な人員・給与削減を迫る」とガーディアン(The Guardian)は警告を発した。
もっとも目を引くのは、イーロン・マスク氏がTwitter社員に「ハードコアに働く」ことを求める最後通告を突きつけたことだ(これは逆効果をあげてしまい、退職者が数百人、もしくは数千人に上るかもしれない、とヴァニティ・フェア[Vanity Fair]は指摘する)。
従業員ファーストの撤廃は判断の誤りか
しかし、就労環境のエキスパートのなかには、テック企業を特徴づけるような、うまみの多い企業文化の終焉が必ずしも近いわけではないと考える者もいる。ペロトン(Peloton)、Hulu、トリップアドバイザー(Trip Advisor)などの企業に柔軟な社内プラットフォームを提供するロビン(Robin)のCEO、ミカ・レムリー氏は「景気が悪化すると、どこでも経費削減を考え始めるものだし、もちろん社員特典面での競り合いも多少勢いを失うだろうが、完全になくなることは絶対にない」と話す。
レムリー氏は、ケータリングからゴルフシミュレーターまでのさまざまな社員特典や社員向け設備が、むしろ今後も企業で大きな地位を占めていくと考える。とくに出社勤務を促進しようとしている今はなおさらだ。レムリー氏いわく「特典廃止は一切見られていない」そうだ。
「企業は従業員が重要視するものに今もかなり投資を続けている。昔に戻ろうとしている企業もあるが……ご存じのように、何事も元には戻らないものだ」と付け加えるのは顧客にグーグル、アマゾン、マイクロソフトが名を連ねる経営コンサルティング会社のユニファイコンサルティング(Unify Consulting)で最高人事責任者を務めるステファニー・レイノルズ氏だ。
「企業文化への取り組みから退くこと、従業員ファーストをやめることが判断の誤りであることは疑問の余地がなく、長期的には会社がしっぺ返しを食らうことになる」とレイノルズ氏は断言する。
出社を再開する企業も、多くが適度なリモート勤務を残す
同氏は、従業員に対し誠実に対応すべく努力を続ける企業と、従業員に「適応するか退社するか」を迫る企業という二分化が進み、後者は社員を失っていると見る。「人に対する思いやりと人のニーズを完全に無視しているためだ」という。また、出社再開の動きが高まるなかで多くの企業が、幅広く人気のあるリモート出社という選択肢を残すなど、社員特典や福利厚生について前向きに考え、戦略的な取り組みを続けていると指摘する。
経済的に困難ではあっても、高度に訓練された経験豊富な従業員に対する需要は衰えず、魅力的な待遇を続けない企業は彼らを逃してしまうことになるだろう、というのがレイノルズ氏の見解だ。「このため、社員特典は今後も極めて重要な要素であり続ける」と同氏は述べた。「従業員に投資しているかどうかは見ればわかる。それが建前だけではないのか、本当に本音を見せているのかも、彼らにはわかる」。
レイノルズ氏は、「大手企業について昨今大きく報じられているコスト削減が、従来のテック業界の終焉を意味するものではない」と主張する。テック業界が直面する困難が、就労人口全体に必ずしも影響を与えるわけでもない。モルガン・スタンレー(Morgan Stanley)のアナリストたちは、テック業界における一時解雇の人数が米国全体の就労人口に比べるとわずかでしかないことを指摘し、そこでの災難が雇用市場全体を真に脅かすことはないという説を提示した。シリコンバレーで起きていることは「働く人にとってディストピア的な未来の始まりの兆候」とみることもできるとはいえ、それが経済全体にも広がっていく可能性は低い、とロイター(Reuters)のコラムニスト、ベン・ウィンク氏は書く。
柔軟な勤務体系はワークバランスの向上だけでなく企業にとってもメリット
雇用市場の競争が激化するに従い、企業は社員特典を強化し、無限の休暇から無料のボトックス注射、さらにはロレックスの腕時計まで、あらゆる特典を用意した。だが、その最盛期でも、従業員たちに最も重宝されたのは無料マッサージでもオフィスに設置された卓球台でもなく、託児サービスや柔軟に勤務できる制度などの福利厚生だった。
リモート勤務の求人の割合が減少するなか、在宅勤務の人気は続いている。そして、本社への出社をかたくなに要求する上司は、求人を埋めたい企業にとっては致命的な存在になりかねない。マイクロソフト、ウーバー(Uber)、Slack(スラック)などを顧客に持つ、フレキシブルなオフィススペースを提供する企業であるIWGが最近行った調査によると、米国1000社の人事幹部の95%近くが、ハイブリッド勤務が採用に効果的であるとし、同時にその88%が、もっと魅力的な福利厚生が退職者削減につながると考えている。
経済不安の時代、ハイブリッド勤務は単に従業員が望むものを提供するというだけの話ではない。企業のコスト削減にもつながり得る話だ。その金額は従業員1人当たり1万1000ドル(約154万円)に上る可能性がある。
昨今ラグジュアリーな腕時計を社員特典とする企業はそれほど見られなくなっているかもしれないが、少なくとも週に数回は在宅勤務できるといった主な福利厚生を守っていくべきことは、企業にとって考えるまでもないことだろう。IWGの創業者であり、CEOを務めるマーク・ディクソン氏がいうように、柔軟な勤務体系は「従業員のワークライフバランス向上だけでなく、企業にとってもコスト削減、柔軟性、生産性の向上、従業員の満足度の上昇と退職者削減につながるもの」なのだ。
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