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概要:仕事で事業計画書を書く人は多いものですが、「フォーマットは美しくても、内容がイケてないものが多い」と元リクルートの中尾隆一郎さんは指摘します。イケてる事業計画書の書き方の勘所を教えてもらいました。
先日、こんな相談を受けました。
「仕事で事業計画書を書く必要があります。ネットで探せばテンプレートはたくさん見つかるものの、特にどういった点を押さえて書くと承認が得られやすい事業計画書になるのか、いまいちよく分かっていません。中尾さん、イケてる事業計画書の書き方を教えてください」
あなたは「事業計画書」を作成したことはありますか? おそらくこの連載の読者の方なら、作ったことがあるという方も多いのではないでしょうか。そしてもしかしたら、冒頭の相談者の方と同じく、事業計画書を書く際の勘所をつかみきれずにモヤモヤしているかもしれません。
私はこれまでに、さまざまな立場から事業計画書に触れてきました。ある時は作成する側の立場から、またある時はそれを承認する側の立場からです。
その経験から実感をもって言えるのは、「フォーマットは美しいけれど内容がイケてない」という事業計画書が世の中にはいかに多いか、ということです。
そこで今回は、イケてる「事業計画書」の作り方をお話ししたいと思います。
3人のステークホルダーの微妙な関係
そもそも、「事業計画書」とは何でしょうか? ネットで検索したところ、こんな説明を見かけました。
「事業計画書とは、創業者の夢を実現するための具体的な行動を示す計画書です。これを通して、企業の存在意義を明確にし、企業を取り巻く環境や進むべき方向性を示せます。また、銀行や投資家から融資を受ける際にも、この事業計画書が非常に重要になってくるのです」
この説明を読むと事業計画書とは起業家が書くものとのことですが、実際には起業家に限らず、多くのビジネスパーソンも事業計画書を書いていますよね。
なかでも多いのが、企業に所属して新規事業を立案する立場にある人。新規事業立案者は、事業計画書を作成し、本部や本社から承認を得ます。この承認は、起業家で言うところの「銀行や投資家の融資や投資の承認」と同じ位置づけです。
そもそも事業計画書は、新しいビジネスを始める時にだけ作成するものではありません。新規事業に限らず、既存事業であっても毎年「事業計画書」を作成し、本部、本社、株主、金融機関に報告をし、必要に応じて承認を得ます。承認をもらって初めて、事業執行のお墨付きを得られるわけです。
毎年の計画書に加えて、3〜10年の「中期事業計画書」を作成することも少なくありません。いや実際にはおそらく、この手の事業計画書を書くことのほうが、新規事業の計画書を作成する機会よりはるかに多いのではないでしょうか。
「事業計画書」は、(当たり前ですが)作成すること自体が目的ではありません。計画書を作成して承認を得ることは単なるスタート。その計画書に記した内容を実行に移すことのほうがはるかに重要なのです。
そう考えると、先ほど紹介した事業計画書の定義には違和感がありますよね。元の文章を活かしながら、実態に即した定義に書き直してみましょう。こんな具合です。
「事業計画書とは、事業責任者(企業経営者、起業家、事業経営者など)が、夢を実現するための具体的な行動を示す計画書です。
この事業計画書を通して、事業の存在意義を明確にし、事業を取り巻く環境や進むべき方向性を示せます。そして事業を取り巻くさまざまな関係者(投資家、金融機関、本社、本部、顧客、従業員、取引企業など)の承認を得ながら、事業執行するための設計図でもあります」
この定義から、事業計画書には次のような3つのステークホルダーがいることが分かります。
編集部作成/イラスト:Sapann Design/Shutterstock
事業計画書の巧拙によって、これらステークホルダーの共感を集められるかが決まり、新規事業ならばスタートの可否が、既存事業ならばヒト・モノ・カネの承認可否が確定するわけですから、とても重要です。
3者の間にグッドサイクルをつくる
私はさまざまな立場で、この3つのステークホルダーの立場をすべて経験したことがあります。その経験から言って、残念ながら多くの場合、3者の間には信頼関係がないことが少なくありません。
その理由を、3者の関係性から説明しましょう(下図)。
編集部作成/イラスト:Sapann Design/Shutterstock
少しデフォルメしていますが、あながち間違ってはいないはずです。あなたの組織でも思い当たるふしがありませんか?
要するに、3者の間には信頼関係がないどころか、お互いに不信感を持っているのです。信頼関係がないのですから、いい結果が出るわけがありません。そして、結果が出なければ、関係はますます悪化していきます。
このことを、MITのダニエル・キム教授が提唱する「関係の質」に当てはめると、こんな感じです。
泉山塁威氏によるダニエル・キム「組織の成功循環モデル」の図式をもとに編集部作成。
このバッドサイクルをグッドサイクルへと改善できれば、「思考の質」が改善し、「行動の質」が改善し、最終的には「結果の質」が向上するはずです。
泉山塁威氏によるダニエル・キム「組織の成功循環モデル」の図式をもとに編集部作成。
事業計画書に関係する3つのステークホルダーは本来、味方同士のはずです。3者がグッドサイクルを作れる仲間であるという認識をお互いが持てるかどうか——これが、イケてる事業計画書を作成するための大前提です。
事業計画を作成する際にフォーマットを決めるのも、この「関係の質」を向上させるためのひとつの手段です。3者はそれぞれ立場が違いますから、使う言葉や作法も異なります。そこで事業計画書を介してこの“トンマナ”を揃えることで、会話がスムーズに成立するようになります。事業計画書をうまく使うことで、「関係の質」が高まるわけです。
事業計画でいちばん大切な要素とは?
ここまでは「心構え編」、いよいよここからが本題です。イケてる事業計画書を書く際の勘所についてお話ししましょう。
事業計画書のフォーマットはさまざまですが、絞り込むと次の3つに要約できます。
事業目的:事業責任者が実現したい「夢」の部分
事業計画:それをどのように具体化するのかという「計画」の部分
論点:事業目的を事業計画どおり進めるための「課題と解決策」の部分
これら3つのうち、事業計画においていちばん大切なのはどれだと思いますか?
おそらく多くの人は「1. 事業目的」こそがいちばん大切だと思ったのではないでしょうか。実は、そうではないんです。
前述のように、私はこれまでさまざまな立場で事業計画に携わってきました。その経験から学んだことがあります。それは、事業計画で最も重要なのは「論点設定」だということ。つまり、イケてる「事業計画書」とは「論点設定」がすべてと言ってしまっても過言ではないのです。
もちろん、「1. 事業目的」や「2. 事業計画」も大事です。そもそも「事業目的」で、ステークホルダーに「その夢を実現する仲間になりたい」と思ってもらえないようでは話になりません。「事業計画」でこれが適切な事業計画であることを説得できなければ、承認が降りることもまずありません。
事業目的や事業計画が合格点に達していなければ、そもそもスタート地点に立つことすらできないわけですから、これらが大切であることは大前提です。
ただし考えてみてください。自分が考えた「すごいアイデア」なんて、実は多くの場合、同じようなタイミングで他社の誰かも考えついているものです。iPodはアップルの画期的なイノベーションのひとつですが、「音楽を持ち歩ける端末」というコンセプト自体はソニーにだってあったわけですから。
とはいえ、新規事業は言うまでもなく、たとえ既存事業であっても、未来を完全に予測することはできません。
だからこそ、この事業計画にはどのくらいの「蓋然性」があるのかをチェックしたいのです。
最終的に収益を大きくするために、現在分かってないどのような仮説を立案し、何にチャレンジするのか。そのチャレンジに取り組む過程で障害となりそうな、不確実要素は何なのか。
チャレンジするには当然、お金が必要です。この夢のような事業計画は、その大切なお金を投じるに値するものなのか。実現するためにともに知恵を出し合い、汗をかくに値するのか。ステークホルダーたちは、事業計画書を通してそれを確かめたいわけです。
そこで「論点」です。論点とは、事業責任者(起案者)が解決しようとしている課題のこと。論点設定ができない事業責任者には、どのステークホルダーも決してOKは出しません。
例えば、新規事業で一般的に論点になるのは次の4点です。
顧客:我々が期待するだけの顧客数はいるのか
顧客価値:我々のサービス・商品は、顧客が期待する価値を提供できるのか
対価:顧客は、我々が期待する価格を支払ってくれるのか
オペレーション:我々が期待する利益が出るだけのオペレーションが実現できるのか
これら1~4が実現できるのであれば、新規事業に対してアクセルを踏むことができます。これらのうち、蓋然性が高いのはどれで、まだ分からないものはどれなのか。その「まだ分からないもの」こそが論点になるわけです。
論点とは、言い換えると、事業目的を実現させるうえで解決すべき課題のことです。事業計画の中で蓋然性が低い箇所をどうやって解決するのか。その仮説を、事業計画書の中で提示していくわけです。
論点は「分解」することで見えてくる
うまい論点設定のコツは、論点を「分解」することです。論点を分解していくと、仮説が見えてきます。
例えばここに、「収益を拡大したい」と思っているA社があるとしましょう。A社の商品に対する顧客の満足度はそれなりに高いものの、さらなる収益改善をしないと今後の商品開発に十分な投資ができなくなることを懸念しています。
この場合、収益を上げるためにどのような論点を設定したらよいでしょうか?
ここで「分解」です。一例として、下図のように論点を分解してみましょう。
(出所)中尾隆一郎『逆算思考』をもとに筆者改定。
まず、「A社は収益を拡大したい」という大論点を分解します。
「A社」という大きなくくりでは解像度が低いので、ここでは組織を「事業部」「本社部門」「間接部門」という3つに分解しました。
仮に、私たちが所属しているのが事業部だとしましょう。事業部の収益を拡大するためには、どんな打ち手が考えられるでしょうか? ここでもさらに、「営業」「マーケティング」「人事施策としてのインセンティブ」「組織」などと、解像度を上げて論点を把握できるように因数分解していきます。
もしあなたが事業部の中の「営業」に所属しているなら、これをさらに「直販」と「代理店」などと分解していくこともできますね。「直販」の方が売上拡大の余地が大きいなら、定量(データ)と定性(インタビューなど)を活用することで、重要なポイントを見極めていけそうです。
こうして要素を分解していった結果、仮に営業チームごとに売上の伸び率が大きく異なることに気づいたとします。一番の好業績が営業B部だったとすれば、他の部の成績をB部並みに引き上げることで全体の売上を拡大させることができることになります。
いかがでしょうか。「A社は収益を拡大したい」という大論点を、「好業績の営業B部並みに他の部の業績を高めたい」という中論点に分解することができました。
このように、ただ「収益を拡大したい」というだけではどんなアクションをとればいいか分からない論点も、分解していって解像度を上げることで、かなり肌触り感が増し、具体的なアクションまでイメージできるようになったはずです。
仮説から次の論点を引き出す
さらに細かく分解してみましょう。
営業チーム間での営業ステップを比較したところ、「プレゼン率」と「クロージング率」に大きな差があることが分かったとします。
(出所)中尾隆一郎『逆算思考』をもとに筆者改定。
これこそがB部とそれ以外の部の成績の差を生み出している要因なのではないか——これが「仮説」です。仮説とは、「論点」に対する、その時点で最も確からしい事実のことです。
この「仮説」が、次の「論点」になります。
なぜこの2つのステップに差があるのか。どうやったら他の部もB部並みに成績を上げることができるか(次の論点)。この論点を解決できる仮説は……という具合に作業を繰り返していき、執行者(ここでは現場の従業員)の具体的な行動に落とし込めるまで、大論点→中論点→小論点と論点のツリーを作っていきます。
こうしてできあがったストーリーが、事業計画の「肝」になります。
このようにストーリーを作れる事業責任者なら、決裁者も安心です。そして執行者に対しても、このストーリーをマイナーチェンジして伝えることで「これならばやれそうだ」と思ってもらえるはずです。
論点設定は「いい塩梅」で
ここで、論点設定の際の注意点をお伝えしておきましょう。
「論点設定が大切だ」とお話しすると、次のような2種類の悪いパターンに出くわすことがあります。
“闇夜の鉄砲”タイプ:真っ暗闇に向かってところかまわず鉄砲を撃つような、当て推量でやるタイプ。まれに、偶然うまくいく天才肌のタイプがいるケースもありますが、再現性は高くありません。その天才がいなくなった途端に、組織が窮地に陥ってしまいます。
“CTスキャン”タイプ:論点ツリーをすべて細かく作るタイプ。MECE(Mutually Exclusive Collectively Exhaustive:モレなく、ダブりなく)という言葉を知っている人ほど、あらゆる細部まで細かく作り込みたくなる傾向が強い(下図参照)。
筆者作成
論点設定のポイントは、「いい塩梅」です。つまり、細かく分解する必要があるところだけを、現場の行動に落とせるところまで分解するということです。先ほどの例でも、大論点を「事業部」「本社」「間接部門」と3つに分けましたが、そこからさらに細かく分解したのは「事業部」のみでしたね。
このように、本質的に必要となる部分のみにフォーカスして分解していくほうが、事業計画を作成する際の時間効率がいいだけでなく、計画書を見る承認社や執行者にとっても、理解しやすくなります。
ここまでで、イケてる事業計画書づくりの最大のポイントとなる「論点設定」までを理解することができました。次回は、ここで明らかになった論点を、どのように数値目標につなげていけばいいのかを考えていきましょう。
※この記事は2021年7月2日初出です。
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中尾隆一郎:中尾マネジメント研究所代表取締役社長。1989年大阪大学大学院工学研究科修了。リクルート入社。リクルート住まいカンパニー執行役員(事業開発担当)、リクルートテクノロジーズ社長、リクルートワークス研究所副所長などを経て、2019年より現職。株式会社「旅工房」社外取締役、株式会社「LIFULL」社外取締役、「LiNKX」株式会社非常勤監査役、株式会社博報堂DYホールディングス フェローも兼任。新著に『自分で考えて動く社員が育つOJTマネジメント』がある。
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