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概要:コンテンツクリエイターが注目を浴び、ソーシャルコマースが普及するにつれ、ライブショッピングが活発化しつつあります。マッキンゼー・デジタルによれば、期間限定セールや特別限定商品といった施策を用いたライブショッピングのコンバージョン率は従来型ECの10倍にものぼったといいます。
コンテンツクリエイターが注目を浴び、ソーシャルコマースが普及するにつれ、ライブショッピングが活発化しつつある。
QVCなどのショップチャンネルの進化形とも言われるライブショッピングは、テレビ放送経由ではなく、ソーシャルメディアと、ウォルマート(Walmart)やAmazon運営のリテールメディアプラットフォーム上で配信され、コンバージョン促進効果に加え、エンターテインメントと没入型コンテンツの相乗効果が期待される。
デジタル関連コンサルティングのマッキンゼー・デジタル(McKinsey Digital)によれば、期間限定セールや特別限定商品といった施策を用いてライブショッピングを開催した企業の場合、コンバージョン率が従来型のeコマースの10倍にあたる30%近くまで上がったという。
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エージェンシーによる試験運用が進む
ライブショッピングは「ライブコマース」「ライブストリーミングショッピング」とも呼ばれ、一部の国と地域では急成長している。
小売専門調査会社コアサイトリサーチ(Coresight Research)の調べでは、中国では2022年、ライブショッピングの売上が4970億ドル(約64兆6100億円)に上ったと推定される。米国における同年の売上は200億ドル(約2兆6000億円)と中国に遠く及ばないものの、2026年には680億ドル(約8兆8400億円)にまで増大する見通しだ。アジア諸国でライブショッピングが着実な伸びを見せるなか、「エージェンシー各社はクライアントの要望に応えるべく、ライブコマース機能を米国でも試験的に導入し始めている」と、ピュブリシス・コマース(Publicis Commerce)のリテールメディア戦略担当バイスプレジデント、アリソン・ルンディ氏は語る。
ルンディ氏が米DIGIDAYに語ったところによると、「ライブショッピングはメークアップ等、使用法の説明を要する商品をチュートリアル動画で紹介したいというクライアントのニーズに応えるものだ」という。「ショッピングイベントではよく、期間限定割引などの購入者特典が付与される」。
ライブショッピングの手法がとくに適したカテゴリーの商品がある。マッキンゼー・デジタルの調査によると、取扱商品のなかでもっとも多いのがアパレル/ファッション関連で、全体の35.6%、次いで美容商品と食品がそれぞれ7%以上を占める。この夏、中国で開催されたトミーヒルフィガー(Tommy Hilfiger)のファッション・ライブショッピングでは、配信中の視聴者数が1400万人を数え、2分間でパーカー1300枚が売れたと報じられた。トミーヒルフィガーはその後、同様のライブショッピングイベントを欧州と北米にも展開した(イベントの視聴者数および売上高は未公表)。
インフルエンサーマーケティングと真正性
ライブショッピング拡大の鍵を握るソーシャルメディアでは、クリエイターたちがライブ配信のホスト役として商品を紹介するインフルエンサーマーケティングが主流になりそうだ。Z世代やミレニアル世代の消費者は、TikTokの『#mademebuyit』のようなトレンド入りハッシュタグでわかるように、ソーシャルメディア経由のショッピング利用率が高い。ジ・インフルエンサー・マーケティング・ファクトリー(The Influencer Marketing Factory)が発表した2022年の購買動向調査によると、米国と英国では、ライブショッピングで商品を購入した消費者の47%がZ世代だったという。
インフルエンサーエージェンシーのハイプファクトリー(HypeFactory)でブランドマーケター兼PRディレクターを務めるダリア・ベローヴァ氏は、Z世代によるソーシャルメディア経由のショッピングがライブコマースの成長において大きな役割を果たすと指摘する。「Z世代の消費者はいまや、ソーシャルメディアをコンテンツ閲覧だけでなく、商品レビューの検索・閲覧目的でも利用しており、それが購買行動につながっている。また、ソーシャルメディアではアルゴリズムの高度化によりユーザーの好みを特定し、パーソナライズ化されたおすすめ商品を表示できるようになった」。
クリエイティブ/インフルエンサー専門エージェンシーのリアルハイプ・クリエイティブ(Real Hype Creative)では、創業者兼CEOのエリカ・ヤン氏が約30名のクリエイターを対象にTikTok上での実験的ライブ配信に協力し、必要なトレーニングの提供に加え、商材調達と動画コンテンツ制作を支援している。リアルハイプ・クリエイティブは、TikTokショッピング施策におけるパートナーのセグウェイ(Segway Inc.)とのコラボレーションで、米国で2023年公開予定の映画「トランスフォーマー/ビースト覚醒(Transformers: Rise of the Beasts)」関連のコンテンツもTikTokに投稿している。
「我々はライブショッピングをチャンスととらえ、多くのクリエイターや主なクライアントとの協業を通じて制作した動画をTikTokに投稿し、商品の機能とライフスタイルのメッセージを発信している」とヤン氏はいう。「しかるべきターゲットオーディエンスに訴求するため、データとアルゴリズムを活用している」。
ライブ配信の商品販促キャンペーンではインフルエンサーの活用が効果的だ。しかしピュブリシス・コマースのルンディ氏は、ユーザーとして商品を語るホスト役が著名人であれ、マイクロインフルエンサーであれ、まずはコンテンツに信憑性がなくてはならないと注意を喚起する。
「もっとも難しいのはコンテンツが醸し出す『真正性』、つまり本物感だ」とルンディ氏はいう。「たとえばモデルとしても活躍する歌姫のリアーナがライブ配信するメークアップ動画なら、視聴者は飛びつくだろう。しかしセレブを登場させる場合でも、信憑性のある内容と売り込みトークの適切なバランスが重要だ」。
ライブプラットフォームとビデオコマース
IPG傘下のUMワールドワイド(Universal McCann Worldwide)で米国コマース部門長を務めるエイミー・オーウェン氏は、誰もがソーシャルメディアを利用するようになったいま、ソーシャルコマースの進化は「当然の流れだ」と述べている。ここ1年、社内でもライブショッピングがよく話題に上るといい、今後のメディアコマースで大きな役割を担うのは、動画上で商品を直接購入できるショッパブルビデオとリテールメディアの要素が「組み合わさって一体化」したライブプラットフォームだと予想する。
「ライブショッピングは、エンゲージメントの発生で注目度が高まるうえ、ショッパブルの要素も大きい。企業がさまざまな分野に手を広げる戦略については賛否両論があるが、ときには新施策をテストして効果を確かめる必要がある」とオーウェン氏はいう。「当社ではテストを通じて収集したデータにもとづき、リスクを負うべきどうかを判断する」。
米ノースカロライナ州に本部を置く食品スーパー、ザ・フレッシュ・マーケット(The Fresh Market)は2023年2月、ビデオコマースプラットフォーム運営のファイヤーワーク(Firework)との提携により、米国初のショッパブルビデオ・ライブコマース専門リテールメディアネットワーク(RMN)を立ち上げた。ザ・フレッシュ・マーケットと契約したブランドは、同社のRMNのライブ配信シリーズの一環として、クリスマスディナー準備のチュートリアルやシェフ特製レシピ等のコンテンツを盛り込んだスポンサード動画広告をライブ配信できる。従来型のRMN上に表示される広告は大半が静止画およびディスプレイ広告だが、ファイヤーワークが開発したRMNは動画広告が中心になる。つまりこのRMNでは、オーウェン氏も述べているように、テレビ、ウェブサイト、デジタル広告などの媒体を通じて、さまざまなコンテンツをショッパブル動画の形でライブ配信できるということだ。
ファイヤーワークのプレジデント兼最高業務責任者のジェイソン・ホランド氏によれば、マーケターにとってビデオコマースは、実店舗とデジタルというオムニチャネルの顧客接点の開拓と効果測定を可能にする手段だという。「消費者の共感を得られるという点においていま、動画にまさるチャネルはほかにない。小売業者とブランドの動画資産を合わせれば、ほかの媒体と比較したとき、KPI等の評価指標でいうと10倍以上の成果が上がるだろう。従来の検索連動型広告やディスプレイ広告とは比べものにならない」。
ザ・フレッシュ・マーケットのビデオコマースは以前のプラットフォームに比べ、コンバージョン率で133%増、平均セッション時間で115%増、クリックスルー率で23%増を達成した。この成功を受けて「ザ・フレッシュ・マーケットがビデオコマースネットワークをサプライヤー間に拡大するとしても意外ではない」とホランド氏は述べたが、今後の可能性については具体的な予測値は示さなかった。
どのプラットフォームと組むか
クリエイターにとってライブショッピングは、プラットフォームの種類によってそれぞれ異なる魅力をもつ。リアルハイプ・クリエイティブのヤン氏によると、ショッピングの動機には関心主導型とニーズ主導型があるが、TikTokがコマースプラットフォームとして好まれる理由は、TikTokを利用する消費者が、娯楽としてのショッピングに関心を抱き、楽しんでいるからだ。TikTokのアプリはユーザーの嗜好と関心事を記憶しており、アルゴリズムが学習を通じてデータをさらに精緻化しているとヤン氏は指摘する(某エージェンシーの元幹部によれば、このアルゴリズムは、ユーザーがTikTokを使い始めて2分以内に、その人個人に関わる重要な情報を取り込めるという)。
ヤン氏は動画という媒体の効果について、「動画というのはいったん見始めるとやみつきになるものだ」と評価する。
一方、オーウェン氏は、ソーシャルメディアプラットフォームはすべて、コマース展開できると考えており、「問題は、どのプラットフォームとパートナーシップを組むかだ」と主張する。TikTokのライブショッピングは「消費者側からみると参加しやすい」一方、インスタグラムは「購入後の会計が簡単にできる」といった特徴があるという。
「ソーシャルメディアでショッピングの機会を提供すれば、ユーザーはなんとなくコンテンツを閲覧しているうちに、何かを買いたいという気にさせられる」とオーウェン氏は説明する。
企業のコマース向けコンテンツ戦略は、ピンタレスト、インスタグラム、TikTok、テレビなど、チャネルによって異なる。その点はルンディ氏も認めるところだが、結果としてエージェンシーにとっては仕事の機会が増えるというメリットが生まれる。「業界では以前、テレビやバナー広告など、媒体によりそれぞれ違うコンテンツを用意しなければならないと言われていたが、いまでは、ソーシャルプラットフォームごとにコンテンツを変更したり調整したりする必要があると言われている」と、ルンディ氏はいう。
しかし、ブランド各社がライブショッピングに参入するにあたり、克服すべき課題もある。ルンディ氏は、ライブ配信においてはコンテンツの調整がより難しいと指摘し、ライブショッピングで販売する商品は「当該プラットフォームの価値観と調和するものを選ぶよう留意しなければならない」と述べている。「ライブ配信のホスト役についても同様で、ブランドの価値観に反する情報発信や、消費者に受け入れられないようなコメントをしないかどうか、確認する必要がある」。
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