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概要:最近の市場は、不安のマグマに満ちている。米国中堅銀行3行の破綻がクレディ・スイスに飛び火した後、懸念はさらに広い市場に波及している。
[東京 18日] - 最近の市場は、不安のマグマに満ちている。米国中堅銀行3行の破綻がクレディ・スイスに飛び火した後、懸念はさらに広い市場に波及している。
最近の市場は、不安のマグマに満ちている。米国中堅銀行3行の破綻がクレディ・スイスに飛び火した後、懸念はさらに広い市場に波及している。大槻奈那氏のコラム。2017年撮影(2023年 ロイター/Benoit Tessier)
特に取りざたされているのは、商業用不動産である。米国では、平均空室率が16%(2023年第1四半期)まで上昇している。また、銀行の劣後債やCoCo債(偶発転換債)などのハイブリッド債や、企業の発行する劣後債等もスプレッドが拡大している。
影響は欧米のみならず、日本にもじわりと及んでいる。ソフトバンク・グループが4月14日に条件を決定した期間35年の劣後債(5年後に早期償還が可能)は利回りが4.75%と、前回21年6月に発行したときから2%ポイントも高い水準となった。
<相関高まる金と暗号資産>
とはいえ、これらの一つ一つは過去にも経験したことのあることばかりだ。にもかかわらず、市場は近年の常識とは異なる動きを見せている。金と暗号資産の同時高騰である。
暗号資産は、この数年、リスクオンの時にナスダックなど高リスクの株式市場とともに上昇する傾向があった。このため、自然と金とは逆相関となっていた。ところが、3月の金融混乱以降、現在(4月17日時点)までの金とビットコインの日次の価格の相関係数は0.92と極めて高くなっている。昨年の同時期はマイナス0.6程度と逆相関だった。
金の価格は、昨年後半から約6割上昇している。現在の1オンスあたり2000ドルという水準から、さらに3000ドルを目指すという強気の見方も出ている。
これは主に、インフレの進行や、今後の米債務上限問題が引き起こす懸念など政治的な要因から、中央銀行の購入額が増加していることが背景にある。
金は、それ自体で収益は生まない。有限な資源であるため、その価値が信じられている限り、価格はコンスタントに上昇していくと考えられる半面、保管コストがかかるため、インカムゲインは基本的にはマイナスである。それでも価格が大きく変動することがあるのは、他の資産の下落リスク等がこうした保管コストを上回る場合等である。
しかし、インフレもやや沈静化しつつある今、そうした要因だけでは、今年3月以降の金価格の急騰と、それと並行して進む暗号資産の価格上昇は説明できない。
例えば、ビットコインは今年の年初来の上昇率が約80%で、3月の金融混乱以降だけでも約3割上昇している。主要金融商品の中でも年初来の上昇率は圧倒的に高く、昨年6月の暗号資産レンディング会社セルシウスの破綻前の水準まで戻っている。
何か暗号資産市場固有の良いニュースがあるのかというと、そんなことはない。
規制に関しては、昨年のFTXの破綻以降、暗号資産の規制強化の必要性が様々な国で議論されている。米当局は、暗号資産会社の創業者を相次いで告訴している。セキュリティ面では、韓国の中小暗号資産取引所GⅮACが、今月10日に不正流出事件で預かり資産総額の23%を失った。
<景気後退時の受け皿にならないソブリン>
では、金と暗号資産が同時に上昇するロジックは何だろうか。
景気に不安がある場合の資金の行き先は、金よりもまず、金利収益が稼げる国債であるはずだ。特に、世界最大市場を誇る米国債については、年内にも利下げに向かう可能性があると市場はみている。ならば、金融混乱によるリスクオフの行動は米国債買いでよさそうなものだ。
しかし、現在米国は、債務上限問題で揺れている。同じことの繰り返しと高をくくる声が多い一方で、格下げリスクを懸念する声もある。ユーロ圏はインフレ抑制に手間取っており、依然として利上げの最終到達点が見えにくい。日本も日銀のYCC(イールドカーブ・コントロール政策)の修正の有無が市場の焦点となっており、先行きが読みにくい。このように、先進諸国の国債市場は、足元ではリスク回避の受け皿にはなりにくい。
さらに、今後については、何らかの金融ショックが発生する可能性も否定できない。過去30年間を見てみると、米国の大幅な利上げの後は、多くの場合、金融ショックに見舞われている。一時期は「ノーランディング」などとして、利上げを行っても米国の景気は冷めないという強気の見方もあった。だが、3月の金融混乱以降、風景は一変した。
こうしたショック・シナリオでは、コロナ対応で膨らんだ債務を抱えるソブリン(国債)も影響を受けうる。そこで、国債の代わりに選ばれているのが、法定通貨に対するアンチテーゼでもある金と暗号資産なのかもしれない。
金も暗号資産も、過去のショックに極めて強かった実績がある。リーマンショックの前後、2007年から2009年にかけて、金価格は約2倍に跳ね上がった。暗号資産については、ビットコインの運用開始が2009年なので、グローバルなショックへの耐性はまだ検証されていない。しかし、やや小ぶりながら、キプロスのソブリン危機の2013年の春には、危機勃発から3か月でビットコインの価格が3.7倍に跳ね上がった。
金も暗号資産も株式市場等に比べて市場規模は小さい。従って、ショック・シナリオを前提とした動きがあるとしても、今のところ世界の金融市場全体からすればごく一部の話だ。果たしてこのような動きが広がるのかどうか。当面は、目配りを続ける必要があるだろう。
(編集:田巻一彦)
(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
*大槻奈那氏は、ピクテ・ジャパンのシニア・フェロー。東京大学卒業、ロンドン・ビジネス・スクールでMBA、一橋大学ICSで博士(経営学)。スタンダード&プアーズ、UBS、メリルリンチ、マネックス証券などでアナリスト業務に従事。2022年9月より現職。名古屋商科大学大学院教授を兼務。
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