ＡＩセクターの主役に躍り出たマイクロソフト、30年前の熱狂再び

昨年終盤の投入後、世界中で何億人という人々が試した対話型人工知能（ＡＩ）「ChatGPT（チャットＧＰＴ）」を巡り２つの見方がある。

一つは、多くの政治家やジャーナリスト、ChatGPTを世に送り出した米新興企業のオープンＡＩが好む考えで、産業革命あるいは、厄介だが原子爆弾に匹敵する歴史的なイノベーション（技術革新）だというものだ。

オープンＡＩのサム・アルトマン最高経営責任者（ＣＥＯ）は、大規模言語モデル（ＬＬＭ）の「GPT-4」が将来さらに進化すれば人類の滅亡を招く恐れがあるとさえ警告している。

一方で、ChatGPTを大掛かりな広告手段だと見なす向きもある。ChatGPTを数分間使ってみれば、人類の滅亡を脅かす可能性は限られていることはすぐに分かる。ChatGPTは、中学レベルの算数が苦手で、先週何が起こったかを伝えることができず、基本的に虚言癖のある人と同じようなものとの意見だ。

ただ、ChatGPTがアルトマンＣＥＯの力では制御しきれないものであることは事実で、ChatGPTがソネットを作ったり、感謝の手紙を書いたりすることを可能にするメガコンピューターを所有しているのは、オープンＡＩではなく、同社の筆頭株主である米マイクロソフトだ。

同社はオープンＡＩに最も多くの資金を提供。重要なテクノロジーパートナーであるだけでなく、今ではChatGPTを実用化する責任を負う。オープンＡＩはシリコンバレーで最もホットなスタートアップだが、多くの点でマイクロソフトの最も有望な子会社のように感じられる。

１年ほど前まで、こうしたチャットボットを巡っては米アルファベット傘下のグーグルが主役になるとの見方が有力だったが、マイクロソフトはオープンＡＩのイノベーションで早急に稼ぐことを重視。コンピュータープログラマーに新しいコードを提案するツール「GitHub Copilot」を初めて有料で提供し、１万社余りを顧客として獲得した。同社の検索エンジン、Bing（ビング）にもチャットボットが導入された。

エバコアＩＳＩのアナリスト、カーク・マターン氏は今月２日に公表した調査リポートで、オープンＡＩが開発した機能がマイクロソフトにもたらす売上高は2027年までに990億ドル（約14兆円）に達する可能性があると推計している。

マイクロソフトのシリコンバレー本社

Photo: Smith Collection/Getty Images

マイクロソフトは19年以降にオープンＡＩに130億ドルを投資していると事情に詳しい関係者は説明。ChatGPTの発表以来、マイクロソフトの株価が30％上昇し、ＡＩテクノロジーの巨人として不動の地位を築こうとしていることも不思議ではない。

投資会社ボケ・キャピタル・パートナーズを創業したキム・フォレスト最高投資責任者（ＣＩＯ）は、ＡＩ分野ではマイクロソフトが「明白なリーダー」となっており、「グーグルは完全に追い抜かれた」と指摘する。

マイクロソフト執行副社長の一人、スコット・ガスリー氏はこうした状況について、パソコンの基本ソフト（ＯＳ）「ウィンドウズ95」投入時と「少し似ている」と話す。

同社が1995年に発売したウィンドウズ95を買うため真夜中に小売店に人々が並んだと振り返るガスリー氏のメールボックスは、企業向けCopilotの初期バージョンへのアクセスを求める企業トップからの依頼であふれているという。テクノロジーの飛躍というより、企業による市場席巻の極みだったウィンドウズ95を連想させる。

マイクロソフトは次の大きなプラットフォームと思われるものに30年ほど前と同様の賭けをしようとしている。アイデアはシンプルだ。あらゆるものにＡＩを搭載し、稼ぐことだ。