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概要:上場廃止し、株式を非公開化する企業が増えています。TOBなど、その仕掛け人として大きな存在感を放つPEファンド・カーラルの部門トップ3人に内幕を聞きました。
上場廃止し、株式を非公開化する企業が増えている。2022年はリーマンショック時の2008年と同じ79社もあった。2021年はそれを上回る86社、2023年もすでに35社が上場廃止銘柄になっている(東京証券取引所より、6月27日時点)。
一方で、その背景は異なる。2008年は上場廃止した企業のうち33社が倒産によるものだったが、昨今は「あえて」非上場企業に戻ることを選択する「戦略的非公開化」が増えているのだ。
企業と組んでTOB(株式公開買付け)を実施するなど、非公開化の仕掛け人として大きな存在感を放つのがPE(プライベート・エクイティ)ファンドだ。経営陣の刷新や事業の断捨離、新規事業の開拓、時には社名すら変える大胆な改革で会社を立て直したのち、事業会社やファンドに売却、もしくは再上場させるなどしてリターンを得る。
世界でも有数の投資実績を誇るカーライルで、日本における各セクターのトップを担う3人に内幕を聞き、前後編で伝える。
PEファンド・カーライルで部門トップを務める寺阪さん(左)渡辺さん(中)小倉さん。
撮影:竹下郁子
渡辺雄介(消費財・小売・ヘルスケアセクターヘッド)慶應義塾大学経済学部卒、ハーバード・ビジネス・スクールMBA。三菱商事を経て2006年にカーライルへ。今後は日本の経営にも携わる。
小倉淳平(テクノロジー・メディア・テレコムセクターヘッド)慶應義塾大学総合政策学部卒。UBSウォーバーグ証券会社(現UBS証券株式会社)の投資銀行本部を経て、2006年にカーライルへ。今後は日本の経営にも携わる。
寺阪令司(製造業・一般産業セクターヘッド)東京大学法学部卒業。タフツ大学(フレッチャー法律外交大学院)、スタンフォード経営大学院修了。大蔵省(現、財務省)、カーライル、ジャパンディスプレイなど複数の企業を経て、再び2020年よりカーライルへ。
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明日の株価か、5年後の成長か
東芝も株式非公開化に向けて動いており、株主に対して、日本産業パートナーズ(JIP)らによるTOBへの応募を推奨すると発表した。
shutterstock / yu_photo
PEファンドの主戦場といえば、「コングロマリット企業のノンコア事業の切り出し(カーブアウト)」や「オーナー系企業の事業承継」などが多かった。これらに加えて昨今増えているのが、「戦略的非公開化」だ。
上場を廃止して話題になった企業には、企業分析SaaSや経済メディアのユーザベース、マッチングアプリ「Omiai」のネットマーケティング、「ほっともっと」「やよい軒」のプレナス、決済サービスのメタップスなどがある(メタップスは6月29日予定)。
ネットマーケティングはPEファンドのベイン・キャピタルが買い手となって、同じくベインの投資先であるマッチングアプリ「with」を運営するwith社とホールディングス(HD)化し、IPOを目指している。
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プレナスとメタップスは経営陣によるMBOで、非公開化後も現在の社長が継続して経営にあたる予定だ。
ユーザベースはカーライルがTOBを実施。買収金額は約585億5000万円だった(Growth Capital試算)。非公開化後は6人の取締役が退任するなど経営体制も刷新し、現在はカーライルから3人が社外取締役として参画している。
上場企業が投資ファンドなどからTOBを受ける(MBOする)際の意見表明には、中長期的な視点に立った抜本的な改革をしたいが、それには先行投資が必要で、改革過程で財政が悪化し株価も下落するだろう。それは望ましくないので非公開化を、という主張が目立つ。
寺阪:マーケットが比較的短期のスパンで期待することと、企業や経営陣が中長期の視点でやりたいことにタイムスパンのずれが生じることって、それなりに多いんですよ。上場したままだと大胆な意思決定ができない、もしくはできたとしても決定までに時間がかかってしまったり。
非上場化して私たちPEファンドが買い手になる場合、投資(保有)期間は平均すると概ね5年ほどです。短期的な利益を目指すのではなく、5年間という中期的な視点で経営できるのは何よりの利点かなと。
株主も極めて少数となり、株主と経営陣が極めて近い関係になるので、意思決定も非常に早くなります。
渡辺:キャッシュフローも利益もそれなりに出ているけれど、成長が鈍化して株価がつかない企業は少なくありません。そして、変革が必要なのに大きな先行コストをかけられないジレンマに陥ってしまう。背景には、『身の丈経営』を良しとする日本の風潮もあるかもしれません。今あるリソースでなんとかしよう、と。
非公開化して我々のような外部資本を取り入れることで、しがらみを断ち切って、止めるものは止め、やることはやる、という大胆に『攻める経営』が可能になります。
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全ては社外取の一言から始まった
日本に進出するアクティビストファンドの数、株主提案数ともに増えている。
出典:アイ・アール ジャパンHD決算説明会資料(2023年3月期)
非公開化が増えているのは、外的要因も大きい。東京証券取引所が市場再編とともに流通株式数などの新たな上場基準を定め、PBR(株価純資産倍率)1倍割れや、ROE(自己資本利益率)8%未満の企業への改善要請を出したこともあり、上場を維持することが難しくなっている。
加えて小倉さんが指摘するのは、「アクティビスト(物言う株主)」や「社外取締役」の増加だ。
は、2014年は8、市場再編の議論が活発化した2019年には33、2023年には69と大幅に増えている(5月11日時点)。
また2021年のコーポレートガバナンス・コードの改定を受け、3分の1以上の独立社外取締役を選任しているプライム市場上場企業は81.6%にのぼる(2022年4月時点、金融庁調べ)。
小倉:取締役会で「外の目」を意識したディスカッションが行われるようになったのは大きな変化です。私が担当し、現在は役員として参画しているユーザベースも、ある社外取締役の一言から非公開化の議論が始まったと聞いています。
ユーザベースは3人の創業者によって設立されましたが、彼らが保有する株式は3人合わせて35%ほど。経営の承継が早く、うち2人はすでに日々の経営には携わっていませんでした。明確な株主がいない状況だったんです。
世界的な市況の悪化もあり、投資家から事業ポートフォリオが複雑で分かりにくいという声が上がっていた中で、社外取から指摘が入ったそうです。「株主構成や事業戦略について、PEファンドを活用した非公開化も含めて、しっかり考え直すべきタイミングにきているんじゃないか」と。
カーライルによる「戦略的非公開化」の例
2023年6月21日に富岡隆臣氏が日本の共同代表に就任した。
出典:カーライルHP
岩崎電気:ここ数年は成長が鈍化しており、東証再編に向けてプライム市場に申請したものの流通時価総額の基準を満たしていなかった(2021年6月時点)(2022年3月に同社試算で適合)。2023年6月に上場廃止。成長戦略と構造改革を行う。
ユーザベース:2022年12月のTOBを経て、2023年2月に東証グロース市場から上場廃止。7月に完全子会社であるニューズピックスを吸収合併予定。
東京特殊電線:古河電工の子会社で、同社と親子上場だった。2023年1月に東証スタンダード市場から上場廃止。TTCホールディングスと吸収合併し、社名をTOTOKUに改めた。
AOI TYO HD:KDDI auの三太郎シリーズなどで知られる広告動画制作大手。2021年9月に上場廃止後、コンサル業のフィールドマネージメント社を統合し、戦略立案からクリエイティブまでを一気通貫で請け負う。
マネースクエア:外国為替証拠金取引(FX)の大手。2016年9月に上場廃止、2022年12月に家電量販店ノジマの投資ファンドに売却した。金額は200億円弱(日経新聞2022年12月19日)。預かり資産残高の合計は660億円(2016年)から1000億円超(2022年)になった。
日立機材:親会社・日立金属グループからのカーブアウト案件。TOB取引額は約293億円(経済産業省)。2015年3月に上場廃止し、社名もセンクシアに変更した。大企業傘下の「安定志向」から「利益重視」へと社内風土改革を徹底した結果、成長と収益性改善の両方を達成。2022年3月に米ファンドのローン・スターに全株売却したときには、年平均の成長率は売上高7%、EBITDAは15%に。
キトー:工業用クレーンなどのメーカー。2003年上場廃止。海外展開の強化や従業員のモチベーションを引き上げる報酬制度の導入により、売上約5割、営業利益4倍強の増加を成し遂げ、2007年に再上場。2023年1月にPEファンド・KKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)のTOBによって再び非公開化し、アメリカの同業と経営統合した。
上場廃止の懸念、顧客や従業員への影響は
GettyImages / AzmanJaka
アクティビストらによる株主提案は増え続けている。2022年に続き、23年も過去最多を記録した(日経新聞2023年6月3日)。金融庁によるとプライム市場の約半数、スタンダード市場の約6割がROE8%未満、PBR1倍割れだ。新たな市場区分で上場維持基準を満たしておらず経過措置の対象になっている企業は、プライム269社、スタンダード200社、グロース41社にのぼる。
低い金利も海外ファンドらにとって大きな魅力だ。
こうした環境もありカーライルでは、今後も株式非公開化は加速すると見ている。
一方で特に日本では「上場企業」というブランドは根強い。社会的信頼や知名度など、上場廃止するデメリットは無いのだろうか。
小倉:この仕事をしているからかもしれませんが、デメリットはないと思っています。上場すること自体が目的になっている場合は別ですが。これまでカーライルが投資してきた国内企業で、上場を廃止したからといって顧客や従業員が離反したことはありません。
渡辺:よく『採用できなくなるんじゃないか』と懸念する方がいます。以前、非公開化をきっかけに、オフィスをいわゆるペンシルビルから都心の一等地にある複合施設、コンサートホールや美術館、レストランを併設したところに移転したところ、採用希望者が増えたことがありました。むしろ場所のほうが大事だったりするんです。
寺阪:「PEファンドの傘下に入る=会社の何かが変わる」ということなので、変化しようとする企業で挑戦したい、そういうモチベーションの高い人がきてくれて、むしろより良い採用ができる面もあります。
それに最近は経営層が若返っているからか、非上場化へのネガティブなイメージもなくなってきてますよね。今の30〜40代は「ガバナンス改革」の重要性が叫ばれる中で働いてきた。グローバルレベルでみて株主に説明がつく経営をしないといけないという危機感が若い頃から醸成されていて、大胆な改革にも抵抗がない人が増えていると感じます。
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会社の10年後を話し合う合宿も
GettyImage / paylessimages
では実際にTOBから株式譲渡後、カーライルはどのように企業の立て直しを進めていくのだろうか。はじめにやるのは、10年後に目指すミッション、ビジョンの策定だ。
もちろん投資する前にも“握って”おくが、10年後のあるべき姿から逆算して、カーライル傘下の約5年間でどういう経営を行っていくか、それに伴って売り上げやキャッシュフローなどの数字はどう変化していくか、またそれらの戦略の実行に必要な理想の組織図、既存メンバーでできるのか、育成が必要か、もしくは“丸っと”外部から人材を持ってくる必要があるのか、などを詳細に検討する。
必要となる設備投資や、同業他社などM&Aによるロールアップ(追加買収)をして業界再編をするのかなども議題だ。
これらを検討するため、買収後はカーライルメンバーと企業の経営陣らで「合宿」を行うという。東京都内のホテルに缶詰になったり、葉山まで足を伸ばしたりと、だいたい1〜2泊かけて腹を割って語り合う。
小倉:2021年に投資して上場廃止したAOI TYO ホールディングスは、テレビCM制作で日本国内のシェアナンバー1の会社です。グループの従業員約1600人のうち1400人をクリエイターが占める珍しい企業で、受託で映像を作っていたんですね。ここでは1カ月半ほどかけてパーパスを設定しました。
決まったのは「つくるチカラで 世の中を明るくつくり変える。」。映像の力で世の中を作り変えたいという思いが込められているんですが、この目標を定めたことで、広告制作の枠を超えた事業展開を見据えられるようになりました。出口を“広告”ではなく“世の中に対するインパクト”に定めたことで、地方ブランディングや企業メッセージのムービー制作などさらに間口が広がったんです。
渡辺:もう1つ必ずやるのは「見える化」です。ミッションを達成するには経営アクションの進捗をはかったり、財務を達成するためにどんなKPIが必要なのかを決めます。それらをタイムリーに把握できるような会議体や仕組みを、DXも活用しながら設計して、本当に行動したのか、また、結果は出たか出ていないのか見えるようにします。そうしてPDCAサイクルを回していくんです。
長いようで短い5年間。緊張感を持って改革を進めることが必要だ。後編ではその鍵を握る社長はじめとした経営陣の招へい、従業員のやる気を高める実力主義の報酬制度、収益への執着、豊富なグローバルネットワークをいかした海外進出の支援など、その詳細に迫る。
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