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概要:[東京 19日] - 2023年も早いもので折り返し点を通過した。ここで改めて今年上期の世界三大通貨の歩みを振り返ると、強弱関係の序列は「ユーロ>ドル>円」となり、結果的にユーロ/円相場の上昇が最も目立つ展開だった。
植野大作 三菱UFJモルガン・スタンレー証券 チーフ為替ストラテジスト
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[東京 19日] - 2023年も早いもので折り返し点を通過した。ここで改めて今年上期の世界三大通貨の歩みを振り返ると、強弱関係の序列は「ユーロ>ドル>円」となり、結果的にユーロ/円相場の上昇が最も目立つ展開だった。
2023年も早いもので折り返し点を通過した。ここで改めて今年上期の世界三大通貨の歩みを振り返ると、強弱関係の序列は「ユーロ>ドル>円」となり、結果的にユーロ/円相場の上昇が最も目立つ展開だった。植野大作氏のコラム。写真はユーロ紙幣。2014年4月撮影(2023年 ロイター/Dado Ruvic)
<08年9月以来のユーロ高・円安>
年明け早々の1月3日、ユーロ/円は一時137円39銭の安値圏まで差し込む場面があったが、その後は断続的に下値を切り上げ、上期最終営業日の6月30日には一時158円00銭と2008年9月以来の高値圏まで買い進まれた。
この半年間で計測されたユーロ/円の最大上昇幅は20円61銭、騰落率に換算すると14.2%の値上がりだった。
その後は、約15年ぶりの高値圏まで駆け上がった達成感が広がる中、心理的節目の160円00銭が目先のレジスタンスとして意識されると自律反落に転じたが、153円台では下値が堅く、現在は156円台で取引されている。
今後もしばらくの間、ユーロ/円は歴史的な高値圏で推移しそうだ。今年の上期に観測されたユーロ/円の快進撃により、筆者がトレンド判定の参考にしている3カ月=13週、半年=26週、1年=52週の移動平均線は、現在すべて右肩上がりの傾向を維持している。テクニカル的には、上昇の勢いが非常に強いチャート・フェィスになっている。
<鮮明な日米欧の金融政策格差>
ファンダメンタルズ的にみても、ユーロ圏の金融政策を司る欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁は、6月下旬にポルトガルのシントラで開催した年次フォーラムで、現在8会合連続で継続中の利上げの頂点がまだ見えていないことを強調。今後も、しばらく政策金利を引き上げることを予告していた。
一方、同フォーラムの目玉イベントである世界四大中銀トップによるパネル討論会に招待された日銀の植田和男総裁は、政府と共同で目指している安定的な賃上げを伴う物価目標2%の達成に「自信を持てていない」ことを理由に挙げて、大規模緩和の継続を主張していた。
主要国の中銀による情報公開が進んで市場との対話が活発化、ネット技術の普及によってプロ、アマチュア全ての参加者がリアルタイムの情報を共有できるようになった近年の外為市場では、各国の金融政策に対する期待の変化が為替に及ぼす影響がどんどん強まっている。ユーロ圏と日本の金融政策の方向性の違いに由来するユーロ高・円安圧力は強そうだ。
為替需給の面からみても、昨秋以降のエネルギー価格の下落を受けて、ユーロ圏の貿易収支はアッと言う間に赤字状態を脱却して現在は再び元の黒字基調に戻っている。だが、同じ条件下であるにもかかわらず、日本の貿易収支は依然として赤字の状況が続いている。
「テクニカル」、「ファンダメンタルズ」、「需給」の三拍子がそろって進んできたユーロ高・円安の流れは、非常にしっかりとした根拠に裏打ちされている。今後、さらなる上値探査に勢いがつけば、心理的節目の160円00銭を試しに行く可能性もあるだろう。
<米欧利上げ打ち止めでも限られる円の戻り>
もっとも、今年上期と同じような勢いを保ったまま、下期も一本調子のユーロ高・円安が進む可能性は低い。現在、ユーロ圏の金利先物市場では今年末までに0.25%刻みで「あと2回」程度の利上げが既に織り込まれている。ECBが追加利上げをさらに実施しても、その範囲内であればユーロ/円の上振れ余地は限られそうだ。
昨年7月の理事会でECBは、政策金利の下限をマイナス0.50%からゼロ%に引き上げてマイナス金利政策と決別。その後は1回も休まず利上げにまい進し、今年6月までの1年弱で政策金利は累計4%も引き上げられた。
急激な利上げによる景気下押し効果は徐々に表れつつあり、6月のユーロ圏の購買担当者景気指数は景気の拡大・縮小の境目である50を割って、49.9まで低下した。
昨年夏から始まったユーロ圏の利上げ局面は既に9合目近くに達しているとみられ、今年の下期中のどこかでは10合目に達して打ち止め感が漂い始めそうだ。
その場合、ECBの「次の一手」が「利下げ」に転じることを見越したユーロ安・円高圧力が発生し、ユーロ/円はそれまでの間に稼いだユーロ高・円安の貯金を一部取り崩す局面に移行するだろう。
ただ、今年の下期にユーロ圏で利上げ打ち止め感が広がる場合でも、ユーロ/円の下振れ余地には限度があるだろう。筆者は今後も日銀が世界唯一の短期マイナス金利政策を維持するとみており、今年下期にECBが利上げを停止しても、日本とユーロ圏の短期金利差はマイナスの状態が続く。
このため、国内外の短期トレード愛好者が「ユーロ売り・円買い」のポジションを持った場合にネガティブ・キャリーの利払い負担が毎日発生する状況は変わらない。投機主導でユーロ安・円高が進む余地は限られそうだ。
<金利が上がらない日本の実態>
一方、日銀は今年の下期以降にイールドカーブ・コントロール政策(YCC)を廃止しそうだが、仮に7月下旬に開催される次回の会合で現在0.5%に設定している長期金利の天井制限を外したとしても、日本の長期金利が円金利スワップ市場で織り込まれている0.7%前後までの上振れにとどまるなら、日本国債の金利はどのユーロ圏の国々よりもはるかに低い状態が続く。円の上値を追いかけて買うユーロ圏投資家を引き付ける魅力があるとは思えない。
世界最低の水準で低迷する日本の長短金利が極端な円高の進行を妨げる防波堤の役割を果たす中、先に指摘したように、貿易収支もユーロ圏は黒字で日本は赤字の状態が続きそうだ。実需由来の為替フローもユーロ圏景気の減速局面で発生するユーロ安・円高圧力を緩和する「縁の下の力持ち」になるだろう。
現在、筆者は今年下期には米国でも明確な景気減速が始まることで米連邦準備理事会(FRB)による利上げ打ち止め感が台頭、来年から始まる米利下げ局面への移行を織り込む形でドル安・円高圧力が強まると予想している。
ただ、そのような局面ではドルに次ぐ世界第二位の市場規模を誇るユーロも、ドル安圧力の有力な受け皿になる可能性が高い。
このため、今後来るべき米国景気の減速局面でドル安・円高が進む場合でも、ユーロは円と同じかそれほど負けないくらいにドルに対して上昇する可能性が高い。今年下期以降の世界三大通貨の強弱関係は「円>ユーロ>ドル」の序列になり、ユーロ圏経済の減速局面で観測されるユーロ/円相場の調整は、ドル/円相場に比べて穏やかになるだろう。
ECBによる利上げ打ち止め感が広がった後に想定されるユーロ/円の調整局面では、ローソク足の下ヒゲが断続的に150円00銭を割込む水準まで伸びるかもしれないが、140円台での滞空時間は長引かず、150円台の前半をコア・レンジとする巡航高度を維持する可能性が高いと予想している。
貿易収支の赤字体質が定着し、人口減少による中長期的な成長期待の低さを反映して長短金利の魅力が世界最低水準で低迷している「令和の日本」では、日本円の安全神話が華やかだった「平成の若かりし頃」に観測された強烈な円の全面高が起き難くなっている。
今後、日本の若い働き手世代が老後資金の積み立てに取り組む際、「円建て金利資産=100%」の保守的な運用では、何十年かけても2倍に増えることすら期待し難い。円、ドル、ユーロの世界三大通貨の債券や株式などにバランスよく分散投資することをお勧めしたい。
編集:田巻一彦
*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
*植野大作氏は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券のチーフ為替ストラテジスト。1988年、野村総合研究所入社。2000年に国際金融研究室長を経て、04年に野村証券に転籍。国際金融調査課長として為替調査を統括、09年に投資調査部長。同年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画、12月より主席研究員兼代表取締役社長。12年4月に三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社、13年4月より現職。05年以降、日本経済新聞社主催のアナリスト・ランキングで5年連続為替部門1位を獲得。
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