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概要:市場では今回、政策据え置きがコンセンサスとなっており、いったん高まりかけたイールドカーブ・コントロール(YCC)政策の修正も見送られるとの見方が強まっている。とは言え、今の日銀にとっての政治リスクを考えると、円安を放置していると受け取られるのも好ましくなかろう。
[東京 26日] - 今週の日銀金融政策決定会合に関連した短期的ドル/円のリスクは、ダウン・サイドだと見ている。
今週の日銀金融政策決定会合に関連した短期的ドル/円のリスクは、ダウン・サイドだと見ている。高島修氏のコラム。
市場では今回、政策据え置きがコンセンサスとなっており、いったん高まりかけたイールドカーブ・コントロール(YCC)政策の修正も見送られるとの見方が強まっている。とは言え、今の日銀にとっての政治リスクを考えると、円安を放置していると受け取られるのも好ましくなかろう。
リスク・シナリオとしてYCC修正の可能性は相応に残っていると思われ、政策据え置きの場合も日銀は今後の修正に含みを持たせ、円安を加速させないよう、総合的にはややタカ派なメッセージとなるのではないか。
26日夜の米連邦公開市場員会(FOMC)や27日の欧州中銀(ECB)理事会の結果次第で、ドル/円がどの水準で28日の日銀会合を迎えるかは違ってくるだろうが、向こう1週間程度の短期の時間軸では上振れ余地は143円台程度までとみている。
その一方、下値も140円前後で底堅いというのが基本シナリオながら、もし、YCC修正などのサプライズが起こった場合は、瞬間的に138円前後へ値を崩す可能性もあるとにらんでいる。
<内田副総裁のメッセージをどう読むか>
先月末、145円に達するドル高・円安が進む中、その流れを変えたのは今月6日の深夜に報道された日銀の内田真一副総裁のインタビュー記事だった。その中で内田副総裁は特段、目新しいことを語ったわけではなった。
だが、円安を受けて神田真人財務官をはじめ財務省が為替介入の可能性をほのめかしてまで、円安けん制を強めていたタイミングでもあった。日銀もYCC修正などで政府(財務省)の円安対策の側面支援に動くのではないかとの見方が、市場では急速に広がっていった。
筆者が思うに、先月半ばに岸田文雄首相が衆院の解散・総選挙を見送る判断をしたことも重要だったのではなかろうか。察するに、植田日銀は当面、金融緩和を継続する姿勢を打ち出しつつ、来年どこかで多少の金融正常化を図ることを考えているのではないかと思われる。もちろんそれが実際に可能かどうかは、世界的な金融経済情勢によるところが大きいとみられる。
ただ、そういう一つのシナリオを持っている場合、その際に生じる非連続的なショックを和らげるために、年内にもある程度の政策調整は進めておきたいとの考えが内部で持たれていてもおかしくはなかろう。
そうした中で日銀にとって一つのハードルとなっていたのが、政治日程だったのではないかと思われる。つまり、岸田首相が7月の解散・総選挙に打って出る場合、最近の株高の流れに水を差しかねない政策修正に日銀は容易には動きがたい事情があったのではなかろうか。
だが、解散見送りが決まったことで、日銀にとっては7月会合の自由度が上り、逆に9月、10月会合は場合によって総選挙に絡んで政治的に敏感な情勢で迎えることになる可能性が出てきた。
こうした中で過去数カ月の円安加速も加わって、日銀がYCC修正を試みる状況が整った。内田副総裁からの情報発信はそうした含意があったように筆者には思われた。
<7月会合での日銀ゲーム理論>
その後、ドル/円が上下に激しく動く中で日銀の判断が難しくなってきていることは事実だろう。ただ、今回、日銀がYCCの修正に動くことと何もしないことを比較考量した場合、前者のメリット、後者のリスクが大きいように見える。
ゲーム理論の「囚人のジレンマ」というほどではないが、日銀の判断と円相場の関係を4象限のマトリクスのようなもので考えてみると、現在の日銀にとって政治リスクが大きいのは、日銀が何も行動しないまま、円安が再開するケースだろう。
特に財務省が円安けん制に動いてきた中にあって、ドル/円が例えば145円を超えるようなことになった場合、財務省の通貨政策と日銀の金融政策の不一致が浮き彫りとなり、この場合、政治的にも、社会的にも植田日銀に対する逆風が強まりかねないだろう。
このように推定するのは昨年、対米ドルで150円を超えた円安が社会的、政治的に不人気だったからだ。それは今後の金融政策のかじ取りにも影響を及ぼしかねない。以上が日銀ゲーム理論のケース1である。
日銀が今回、YCC修正に動いた場合は、改めて円安が進行するケースでも日銀への風当りはそれほど強くなることはなかろう。逆に、日銀がYCC修正を見送り、円高が進行するケースも特に日銀批判が高まることはなかろう。これらがケース2と3である。
日銀にとってもう一つのリスクとしては、YCC修正を日銀が断行した結果、円高が加速するケースがある。だが、建前として日銀はYCC修正と金融正常化の議論は切り離している。この場合はハト派姿勢を打ち出すため、金融緩和の継続を訴えてくる可能が高かろう。現状の円金利動向からしても、このケース4においては、直接的な円高は限定的なものに留まる公算が高い。
このように整理すると、それはあくまでも一つの視点に過ぎないが、円相場と言う観点から今回の日銀会合を見ると、やはりYCC修正を見送り、円安が再開してしまうケースを避けるべきという結論が見えてくるように思える。
ただし、現実的にはYCC修正に動くことだけが、円安を抑制し、日銀にとっての政治リスクを軽減するための手段というわけではない。むしろ、今回、YCC修正に動きながら、同時に金融緩和の継続を訴えつつハト派姿勢を強く打ち出す場合、当面の日銀による引き締めリスクがなくなったとの判断の下で、為替市場ではむしろ円安が進みやすくなってしまうような事態も考えられる。
逆に、今月会合でのYCC修正は見送りながらも、9月、10月会合に向けてその可能性についてよりオフィシャルな形で示される場合(例えば、植田総裁が会見において「決定会合でYCC修正の議論があった」などと発言する場合)、市場にその期待(警戒感)を持たせつつ、円高を回避しながら、円安も抑制するという芸当が可能になるかもしれない。
今秋に総選挙の影がちらつく中、植田日銀にとっては微妙な選択肢だろうが、これも排除できないシナリオだろう。
<ドル/円の短期シナリオ>
ドル/円は内田副総裁からの情報発信を受けて、145円前後から一時は137円近くまで急落したが、この1週間は日銀のYCC修正観測が後退する中で142円近くまで値を戻してきた。
こうした状況下、もしも日銀が今週、YCC修正に動くというサプライズとなったり、実際に修正は見送りながらも上記のようなタカ派的な情報発信を行う場合、短期的にドル/円が140円を割り込むような反落となるリスクがあるように思われる。
もちろん現在の市場コンセンサスのように、YCC修正を見送り、従来通りの緩和スタンスを日銀が打ち出し続ける可能性も十分にある。この場合は比較的短期間のうちに145円を突破してドル高・円安が進む公算が高いだろう。
1カ月前のように財務省は再び為替介入の可能性をチラつかせながら、円安けん制を行なわなければならない事態に逆戻りしよう。上記したような円安に絡んだ政治リスクを考えた場合、日銀としては避けたい事態であるように筆者には見える。
むろんドル/円が27─28日の日銀会合にどのように反応するかは、今日、明日のFOMCやECB理事会の結果にも左右されようが、米連邦準備理事会(FRB)、ECBともに今週は0.25%の追加利上げを決定しつつ、今後の引き締めには明確な示唆は行わず、態度を留保するというのが市場の中心的な見方のようだ。
こうした中で興味深かったのは先週18日のオランダ中銀・クノット総裁の発言だった。クノット総裁はECBではタカ派メンバーと見られているが、9月の利上げに関しては慎重姿勢を示した。
実は最近、同じくタカ派のドイツ連銀・ナーゲル総裁も9月利上げに中立的な見解を示すようになっており、パウエル議長率いるFRBもそうだが、ECBでも過度な金融引き締め(景気オーバーキル)となってしまうことへの警戒感が強く意識され始めていることを感じさせる。
この1週間ほどは米金利が再び上昇。独IFO景況指数やPMIなど欧州の景況悪化を示す指標が続いたことも手伝って、ユーロ/ドルは今月前半の急騰から一転して反落してきた。
ただ、FRB、ECBとも特段のタカ派サプライズがなければ、米株高地合いが続く中にあって、今月前半のようなリスクオン的な米ドル安圧力が再び強まってきてもおかしくないように筆者には思える。
そうした状況下で、今週の決定会合で日銀が過度な緩和姿勢を打ち出すことを避けた場合、短期的には上記したようなドル/円反落が促されやすいだろう。ドル/円よりは震度は浅いだろうが、ユーロ/円も今月半ばにつけた154円前後までなら調整余地が生じうると見ている。
とは言え、もしもFOMCとECB理事会を経て、ドル/円で140円台、ユーロ/円で155円台を割り込んだ状態で、28日の日銀会合を迎える場合には、YCC修正が決定されるようなタカ派サプライズとなったとしても、円高余地は限定的。むしろ同時に日銀が打ち出してくるであろうハト派姿勢が材料視され、向こう1週間程度ではむしろ円安が進行することになってもおかしくないと思われる。
中長期的には、今月前半に対ユーロで顕著になった米ドル安傾向が次第にドル/円にも及んでくると見ているが、それでも今週、日銀が示す姿勢次第では中短期的には145円を超えるようなドル高・円安となるリスクはくすぶっている。
ユーロ/円などクロス円も内外金利差拡大を背景にまだ円安が進みやすい地合いにあるというのが、筆者の基本的な見方である。
編集:田巻一彦
(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
*高島修氏は、シティグループ証券のチーフFXストラテジスト。1992年に三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)に入行し、2004年以降はチーフアナリスト。2010年シティバンク銀行入行、チーフFXストラテジストに。2013年5月より現職。
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