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概要:8月24ー26日に米ワイオミング州ジャクソンホールで開催されたカンザスシティ連銀主催のシンポジウム「ジャクソンホール・シンポジウム」は、ほぼノーサプライズに終わった。
[東京 30日] - 8月24ー26日に米ワイオミング州ジャクソンホールで開催されたカンザスシティ連銀主催のシンポジウム「ジャクソンホール・シンポジウム」は、ほぼノーサプライズに終わった。
8月24ー26日に米ワイオミング州ジャクソンホールで開催されたカンザスシティ連銀主催のシンポジウム「ジャクソンホール・シンポジウム」は、ほぼノーサプライズに終わった。写真は円とドルの紙幣。東京都内で2011年8月撮影(2023年 ロイター/Yuriko Nakao)
注目された米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長の講演では、「適切であればさらに金利を引き上げる用意がある」などと、タカ派的な発言も散見されたが、特に目新しさはなかった。同シンポジウムで議論されるとの観測から市場の関心を集めていた景気を過熱も冷やしもしない「中立金利」については、パウエル議長は「確実に特定することはできず、金融引き締めの正確な度合いは不確実だ」と述べるにとどめた。
また、金融の「引き締め過ぎ」と、「引き締め不足」のバランスをとるのがいかに難しいかに言及し、当面は金利水準を高く維持したまま、さらなる引き締めが必要かどうかを慎重に判断していくとの見解を示した。イベントを無難に通過したことで、VIX指数は低下。為替市場でも円安・ドル高が進行している。果たしてこのトレンドは今後も続くのだろうか。
<予想以上に強い米経済>
FRBのこれまでの利上げにもかかわらず、米国経済は予想以上の強さを維持している。ソニーフィナンシャルグループはこれまで、米国経済が10-12月期からマイナス成長入りするとみていたが、その時期を来年1-3月期に後ずれさせることとした。金融市場の一部では、早くも米国経済を「ゴルディロックス(適温経済)」とする見方も出始めている。つまりは、米国経済は過熱も減速もしていない状態で、今後インフレも相応に抑制されていき、米経済は景気後退を回避するというソフトランディングシナリオである。
米国経済の堅調ぶりは、個人消費の強さが背景にある。7月の米小売売上高は前月比0.7%と市場予想の同0.4%を大きく上回り、8月のミシガン大学消費者信頼感指数も69.5と、7月の71.2から小幅に悪化したものの、FRBが利上げを開始した22年3月以降で最も高い水準である。個人消費が強い要因としては、新型コロナ対策としての給付金などによる過剰貯蓄の取り崩しが続いていること、インフレが減速してきたことによる実質所得の増加、労働需給の逼迫による賃金上昇などが挙げられる。
<ドル円上昇、実質金利差と平仄>
こうした予想外の米景気の堅調さによって、米長期金利が上昇し、結果、米実質金利が大きく上昇したことが、足元のドル高につながっている。日米実質金利差(10年)とドル円は21年7月以降、相関係数が0.93と高い相関性を維持しており、これをベースに試算すると、日米実質金利差が0.1%ポイント拡大する毎に、約1円ドル円が上昇する計算となる。足元は144円台後半が適正水準となっており、146円台はやや上振れてはいるものの、これまでのところのドル円上昇は、日米実質金利差と概ね平仄が合っていると言えよう。
これまで、米景気減速に伴い、早ければ9月ごろからドル安・円高が進行するとみていたが、仮に今後、米10年債利回りがさらに上昇し、足元の4.3%台から、4.5%も超えて、4.7%付近まで上昇した場合、米期待インフレ率や日本の金利環境など、他の条件が変わらなければ、計算上はドル円が1ドル=149円前後と、昨年10月以来久々に、150円の大台が視野に入ってくることになる。問題は、どうなればそのような環境が実現するかだ。
<米実質金利の上昇にも限界>
筆者は、米長期金利が4.5%を大きく超えていく可能性は低いのではないかとみている。もし、米国経済が過熱状態となりインフレが高止まりする場合は、さらに複数回の利上げが必要となるだろう。しかし、この場合米長期金利が素直に一層上昇するかといえば、米株価急落などに伴い、景気の先行き不透明感から、むしろ低下する可能性があるだろう。
一方、米国経済が急速に減速した場合には、利下げ観測が台頭するなか、米長期金利は低下することが見込まれる。仮に筆者の予想通り、「過熱」「減速」のいずれのケースでも米長期金利が低下するとすれば、期待インフレ率が何等かの理由で大幅に低下しない限りは、米実質金利(名目長期金利―期待インフレ率)が今より大幅上昇するストーリーは描きにくい。米国の10年物のブレークイーブン・インフレ率(期待インフレ率)は年初来概ね2%台前半で推移しているが、FRBのインフレ目標が2.0%であることから、期待インフレ率も2.0%付近が下限となると思われ、低下余地は限られよう。
したがって、いずれのケースも、米実質金利の上昇には歯止めがかかり、足元のドル高・円安にブレーキがかかる、又は、ドル安・円高に転じる公算は大きい。
<円安加速のパターン、持続性には疑問>
ただ、米長期金利が大幅に上昇しなかったとしても、一時的にドル高・円安が一段と加速する可能性はある。それは、先述した「ゴルディロックス」のパターンだ。このケースでは、米国経済が比較的堅調で、かつインフレも徐々に抑制され、ソフトランディング期待が高まるなか米株価は上昇。市場のボラティリティーも低下していくだろう。
日米金利差を狙った「円キャリー取引」が活発化しやすい条件として、1)日米の短期金利差が拡大していること、2)ドル円のボラティリティーが低いこと、3)リスクオンの地合いであることーーが挙げられる。為替差損を被るリスクが低い状態で、金利差を狙える環境は、投資家にとって円ショート・ドルロングポジションを積極的に取りに行くインセンティブとなるだろう。
3条件のうち、1)の短期金利差は既に大きく開いており、すぐには縮まりそうにない。また、2)のボラティリティーについては、7月の日銀金融政策決定会合の際に急騰したがその後落ち着き、足元はドル円の1カ月物ボラティリティーが10%を割っている。
あとは、3)の市場環境がリスクオンとなるかどうかだが、米国経済が「適温」となれば、リスクオンの地合いは強まることになるだろう。経済を過熱も冷やしもしない政策金利の中立水準はどこなのか、今回のジャクソンホール・シンポジウムで明確に示されることはなかった。恐らく現在は、過剰貯蓄などの存在で金利感応度が下がっていることや、グリーン化・デジタル化等に向けた投資意欲が旺盛であること、財政出動が増えたことなどから、中立金利が上昇しているとみられるが、これらはあくまで一時的である可能性が高いうえ、米経済指標にも弱いサインが出始めている。
米銀の貸出態度は一層厳格化しており、米銀の実際の貸出も、昨年11月のピーク(前年比13.5%増)から、7月末時点で同1.6%増まで伸び率は低下した。おそらく今年末には前年比ゼローマイナス圏に陥るとみられる。家計の過剰貯蓄もこのままのペースで取り崩していくと、だいたい年末までには底を突き、消費のペースはスローダウンしそうだ。
総合的にみて、ゴルディロックスという楽観論に傾くのは時期尚早と言えるのではないか。想定していたより、タイミングは後ろ倒しになりそうだが、米国の景気減速が如実になれば、日米実質金利差が縮小するなかで、ドル安・円高が進行する公算が大きい。
(編集 橋本浩)
*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
*尾河眞樹氏は、ソニーフィナンシャルグループの執行役員兼金融市場調査部長、チーフアナリスト。米系金融機関の為替ディーラーを経て、ソニーの財務部にて為替ヘッジと市場調査に従事。その後シティバンク銀行(現SMBC信託銀行)で個人金融部門の投資調査企画部長として、金融市場の調査・分析を担当。著書に「〈最新版〉本当にわかる為替相場」、「ビジネスパーソンなら知っておきたい仮想通貨の本当のところ」などがある。
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