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概要:半導体受託生産最大手の台湾積体電路製造(TSMC)は着実に自分の世界を広げている。先日、ソニー子会社と共同で日本に70億ドル規模の工場を建設することで合意し、他の地域でも同様の計画を立てている。生産拠点の分散化は地政学的リスクを防ぐのには有効だが、財務面で体力が奪われる危険もはらむ。
Robyn Mak
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[香港 12日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 半導体受託生産最大手の台湾積体電路製造(TSMC)は着実に自分の世界を広げている。先日、ソニー子会社と共同で日本に70億ドル規模の工場を建設することで合意し、他の地域でも同様の計画を立てている。生産拠点の分散化は地政学的リスクを防ぐのには有効だが、財務面で体力が奪われる危険もはらむ。
半導体受託生産最大手の台湾積体電路製造(TSMC)は着実に自分の世界を広げている。写真は同社のロゴ。台湾の新竹で1月撮影(2021年 ロイター/Ann Wang)
TSMC製の半導体はiPhone、フォルクスワーゲン(VW)車、プレイステーションなどさまざまな製品に搭載されている。しかしその製品が世界中いたるところで使われているにもかかわらず、TSMC自体は明らかに地元密着型の企業であり、製造拠点のほとんどと5万7000人の従業員の大部分が台湾に集中している。
半導体の製造には1000以上の工程があるため、あらゆる部品を近くに集約した方が良い。管理の厳格なTSMCの工場は、効率性と収益性が世界トップクラスで、過去3年間の平均年間粗利益率は50%近い。TSMCはこの高い利益率をてこに、他社に先駆けて次の大型製品の開発に資金を投入することができた。
しかし世界的な半導体不足に加えて、各国政府が半導体技術を自前で賄う体制作りを進めていることから、TSMCの優位は揺らいでいる。ロイターの報道では、同社は日本以外にも、米国内に最大6つの工場を建設する交渉を進めているほか、欧州でも建設の可能性がある。工場建設の費用をカバーするのには多額の公的資金が投入されるだろう。バイデン米大統領は半導体産業向けに520億ドルの補助金を求めている。TSMCも日本の合弁会社に21億ドルを出資し、過半数株式を取得すると約束した。
しかし既に異論も出ている。半導体業界で隠然たる力を持ち、2018年に引退したTSMC創業者の張忠謀(モリス・チャン)氏は、政府が半導体製造拠点を広げようとするとコストが上昇し、技術の進歩が遅れる恐れがあると警鐘を鳴らした。
製造拠点が拡散し、数が増え、重複するようになるのは避けられないかもしれない。米中の緊張が高まり、中国と台湾の関係も厳しさを増しているためだ。
競合他社からのプレッシャーもある。韓国のサムスン電子はTSMCの技術的な優位を脅かしつつある。
TSMCは長期的に50%以上の粗利益率を維持するとの目標を掲げている。しかし新たな投資を行えば、何かを犠牲にする必要がある。リフィニティブによると、TSMC株は来年の予想利益に基づく株価収益率(PER)が23倍と、サムスンの11倍、インテルの13倍に比べてかなり割高な水準で取引されている。この圧倒的な差が縮まるのはこれからだ。
●背景となるニュース
*半導体受託生産大手の台湾積体電路製造(TSMC)とソニーグループ子会社のソニーセミコンダクタソリューションズは9日、共同で熊本県に半導体工場を建設すると発表。当初の設備投資額は約70億ドルとなる見通しで、「日本政府から強力な支援を受ける」とした。2022年に着工し、24年末までの生産開始を目指す。
*ソニー側はTSMCとの合弁会社に約5億ドルを出資し、20%未満の株式を取得する。TSMCは別途、取締役会が21億ドル未満の出資を承認したことも明らかにした。
*小林鷹之経済安全保障担当相は10日、TSMCとソニーの工場建設計画を歓迎すると述べたが、政府支援の具体策は明らかにしなかった。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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